夏ですね!
みなさん、Vaporwave聞いてますか!?!?!?
さて、今日の話題はVaporwave。
意外にもオバケウェブ初のVaporwave記事。
今回はVaporwaveのカタログを作ろうという企画。
はじめに重要なことですが、研究用の資料なので今はまだ公開できません。最後まで読んでもExcelファイル自体は手に入らないので悪しからず。
作成過程に興味ない人は、中盤以降から読んだほうが面白いかも。
Q1.「お前だれ!?」
・Vaporwaveリスナー since 2016〜
・「形而上蒸気の美学―Vaporwaveと思弁的実在論」という中二病マシマシの卒業論文を書いて、大学を卒業した。
・現在、都内で院生をやっている。修論は哲学関連で進めているが、趣味でインターネットカルチャー(とりわけVaporwave)について研究中。
・NAVERまとめに「Vaporwave A to Z:蒸気波歴史大百科全書」というまとめ記事を書いている。
・犬派。
Q2.「Vaporwaveってなに?」
・2011年から2012年初頭にかけてインターネット上で誕生した、謎の音楽ジャンル。
・しょぼいPCグラフィックやVHS、昔のCMや天気予報、日本語や日本カルチャー、ショッピングモールのBGMや80s90sのスムースジャズなどがサンプリングされる。
・金字塔的なアルバムとして、Macintosh Plus『Floral Shoppe』。
本題へ移ります。
「Vaporwave主要リリース」のカタログを作るよ
ということで、作るよ。
①情報を集める
まず、Vaporwaveの有名なカタログとしては、「Vaporwave Essentials Guide: Ultra Edition」がある。
5MBsの巨大なjpeg画像に、約150枚のアルバムを掲載した狂気のカタログ。うちのiMacは虫の息なので、これを開こうとするとフリーズする。
リストとしては➡こちら⬅のほうが見やすい。
長らくVaporwave入門の地図として人気を博してきたVEG:UEだが、残念なことに2014年ごろまでしかカバーしていない……。2814の超重要アルバム『新しい日の誕生』すら入ってない!!
そこで新しく作られたのが、「Vaporwave Essentials Guide: Nu Edition」。
かわいそうにもあまり知られてないガイドだが、2014年〜2016年ごろの作品をカバーしている。
極めつけは「Essential Vaporwave」というウェブサイト。巡回中にたまたま見つけたサイトだが、ざっくり2016年ごろまでの作品を網羅的に掲載している。しかもありがたいジャンル別。
こんな感じで、Vaporwaveをカタログ化しようという試みは何度もなされてきた。
じゃあなぜ再カタログ化する意義があるのか、というと2つある
①2017年以降をざっくりカバーする。
②恣意的なチョイスじゃなくて、有名な作品だけに絞る。
とりわけ②が重要な任務になってくる。詳しくは後述。
ところで最後に取り上げた「Essential Vaporwave」、GitHub上でテキストリストを見られるのが神。
今回はこれをベースにした。
②Excelに貼り付ける
とりあえずコピペするとこんな感じ。
合計で413枚のアルバム。これは期待できそうだ……。
しかし、このままだとカタログとして役に立たない……。現状手元にある情報は、「アーティスト名」「アルバム名」「音源URL」「ジャンルタグ」のみ。
せめて「リリース日」「レーベル名」ぐらいなきゃ。
ということで、調べる。413枚。
③調べる
参考にしたのはもちろん俺たちのDiscogs。
Discogsでよくわからないものに関しては、BandCampのページまで飛んで確認した。
ついでに……
Discogsユーザーによる統計データ(所有している/ほしい)も記載しておけば、Vaporwaveアルバムをユーザーの人気ランキング順でソートできるのでは!?、ということで追加記載した。
同時に、統計があまりにもしょぼいアルバム(所有してる5、ほしい0みたいな)はリストから除外していく。
もちろんDiscogs上での統計が人気を直接反映しているわけではないが、「所有している5」と「所有している500」とでは、影響力はレベチだ。.jpeg Artifacts の『Ridin’ That (Information Highway)』(所有している1、ほしい1)とか、悪いけど見たことも聞いたこともない。
④さらに調べる
また、同アーティストで記載されているアルバムよりも有名なアルバムがある場合、そちらに入れ替える。新しい作品でも、すでに人気のものがあれば追加。
他のサイトも参照しつつ、記載されていない有名アルバムを片っ端から追加。
これで2017年以降も同時にカバーする。
また、一つずつ聞いて軽いコメントを残しておく。本当に軽いもの。「ザ・Dream Catalogueって感じで絡みづらい」、みたいな。
⑤できた
2日かかって、ようやく431枚調べ終えた。
こんな感じのカタログができました。
削っては足して、合計で約270枚。中にはVaporwaveではないけど関連する作品もいくつか。エッセンシャルとはこういうことだ。
(小休止。森ビルから見た六本木周辺の風景)
ということで、カタログができたので、あとは遊ぶ時間。
ある意味、こっからが本日の本題。
[コラム1]
Vaporwaveの人気アルバムTOP10
「そんなんお前、Discogsでソートすれば出るやろが」と思われるだろうが、Discogsは不親切なので、なぜか素直に表示してくれない。
「人気」順での並び替えは、このざま。
Sangamとか誰!? 所有10欲しい2でなんで載ってんの??
ってな感じで、よくわからん作品がめちゃくちゃ混ざる。
「求められている」「集められた」順ならだいぶマシだが、同じ作品が複数入ってたり(デジタルアルバムと、カセットリリースで2回カウントしてるみたい)。
あと、できれば「所有している」+「欲しい」の数値もランキング化したい。作品のレア度によってデータに偏りが出ないように。これも、Excelファイルなら楽ちんだ。
ということで、Vaporwaveの人気アルバムTOP10を大発表〜〜!
Software、Oneohtrix Point Never、James Ferraro、Chuck Personみたいな、あとからVaporwave扱いされてる作品は除外。HOMEはちょっとシーンがズレるのでひとまず除外すると……。
- Macintosh Plus 『Floral Shoppe』5745票
- 2814『新しい日の誕生』4965票
- Saint Pepsi『Hit Vibes』2439票
- Luxury Elite & Saint Pepsi『Late Night Delight』2166票
- 2814『Rain Temple』2052票
- S U R F I N G『Deep Fantasy』1702票
- Vaperror『Mana Pool』1533票
- 2814『2814』1162票
- Blank Banshee『Blank Banshee 0』1058票
- Flamingosis『Bright Moments』1008票
2814強ぇぇぇえええーーッ!!
リリース済みの3アルバム全てがTOP10にランクイン。もはや2814はVaporwave扱いしない方がいい時代。完全に別枠。
意外にも食い込んできたのがFuture Funk界隈の新星ビートメーカーFlamingosis。こちらは隣接するLo-Fi Hiphop界隈での評価が根強いか。
残りは予想通りといった感じ。
次点で以下の4作品が続く。
- テレヴァペ『永』1006票
- Flamingosis『Pleasure Palette』888票
- マクロスMACROSS 82-99『A Million Miles Away』860票
- 猫 シ Corp.『HIRAETH』829票
こちらもそうそうたるメンツ。
個人的にはFlamingosisと2814の『新しい日の誕生』以外を除外して
- Macintosh Plus 『Floral Shoppe』5745票
- 2814『新しい日の誕生』4965票
- Saint Pepsi『Hit Vibes』2439票
- Luxury Elite & Saint Pepsi『Late Night Delight』2166票
- S U R F I N G『Deep Fantasy』1702票
- Vaperror『Mana Pool』1533票
- Blank Banshee『Blank Banshee 0』1058票
- テレヴァペ『永』1006票
- マクロスMACROSS 82-99『A Million Miles Away』860票
- 猫 シ Corp.『HIRAETH』829票
ってのが妥当だと思う。リスナーの体感的にも、こっちのほうがしっくりくるのでは。あとはお好みで。
ちなみに「所有している」「欲しい」順でソートすると、結構変動する。
2814の『Rain Temple』みたいに手に入りやすい作品(1211/841)もあれば、Saint Pepsiの『Hit Vibes』みたいにレアな作品(419/2020)もあるからだ。
にしても『Hit Vibes』ってこんなにレアなのか? 意外だ。
ついでに、悲しいお知らせです。
びっくりするぐらい弱かったのが、骨架的とInternet Club。誰が聞いてんの??ってレベル。
Vektroidはもう少しだけマシ(Tanning Salon名義は異様に人気だが……)。
ついでにInfinity Frequenciesと18 Carat Affairも大したことなかった。
ここで改めて想起してしまうのが、「2014年以前まで、Vaporwave”ブーム”など存在しなかった説」だ。たとえば以下参照。
有名な話だが、Discogs上で「Vaporwave」タグがついてる作品のリリース数を見ても、以下の通り。
何、何、何で……。
こうも初期Vaporwaveが軽視されているのを見ると、いよいよ「当時はブームなんてなかったんや!」って気もしてくる。2012年ごろにele-kingとかhi-hiで盛り上がっていたみんなはどこへ行ったんだ。
たぶん早々に飽きてフェードアウトしてしまったのだろう。
(こんなにイケてるのに……)
とりあえず、新たな発見をまとめると……
①2814、バカ強い。Flamingosis、意外と強い。
②単純な所有数では『新しい日の誕生』が『Floral Shoppe』を上回る(なんてこった!!)。だが「欲しい」を足した数値では『Floral Shoppe』の方が上。やはり『Floral Shoppe』のほうがレアだからか。
③初期Vaporwaveは全然聞かれてない。最近のブームに比べたら、2012年前後の”ブーム”なんてミジンコレベル。
[コラム2]
独断と偏見なしで選ぶ、次世代のVaporwaver
データをもとに、独断と偏見なしで選んでいきます。
とりわけ、2017以降も顕著に活動を続けているアーティストから選びました。
これが次世代のビートメーカーたちだ!!!
①みんなのアイドル―猫 シ Corp.
「多作、高クオリティ、高打率」と三拍子揃ったVapowaverといえば、俺たちの猫 シ Corp.。
ユーザー所有数100超えのアルバムを、単独でここまで保有しているのは猫ちゃんぐらい。
まさにオリコンチャートでいうところの乃木坂46。BandCampからダウンロードしたリスナーに握手券でも配っているんだろうか。
多作すぎて掲載しなかった作品もいっぱいあるが、アルバムごとに作風ががらりと変わるのも猫ちゃんの魅力。Mallsoftのアーティストなんて思われてたのははるか昔。Lo-Fi Hiphopが流行した折には、その名も『Lofi』(2017)をリリースし、涼しい顔で「それぐらい作れますけど?」と一蹴してみせた。
さらにコラボも豊富。もはや2018年現在のシーンにおける中心人物といっても過言ではない。
Vaporwave好きといって、猫ちゃんを知らないやつはモグリだ!!
②仮想夢のカリスマ―t e l e p a t h テレパシー能力者
HKEの盟友としてレーベルDream Catalogueを牽引してきたテレパシー能力者。2814の片割れ。
DC時代はHKEという強烈な個性にやや埋もれがちだったが、HKEが前線を退いて以後、テレパシーはのびのびと創作を続けている印象。
最近はレーベルもはじめちゃった。
もともと使っていた仮想夢プラザ名義だが、ついにプラザが(レーベルとして)オープンしてしまったらしい。
こちらも人間離れした多作っぷりに、目が離せない。
Vaperrorとのデュオ、テレヴァペ名義での新作も待たれる。Vaperrorは近頃あまりリリースがないみたいだが、学生だし忙しいのだろうか……。
③ロックなビート職人―Esprit 空想
ちょっと危ない薬やってそうな目つきで有名なEsprit 空想ことGeorge Clanton。
宅録感たっぷりのサウンドも魅力的だが、なによりも魅力的なのが彼の運営するレーベル100% Electronica。
時代に埋もれてしまったS U R F I N GやSoftwareのアルバムを再販し、再評価の火付け役となった。EquipやSatin Sheetsなど、要チェックのアーティストも所属。
いま一番イケてるサウンドのプラットフォームといっても過言ではない。DIYの精神を忘れないロックな100% Electronicaは、今後も要注目。
④気鋭のトラップDJ―NxxxxxS
Vaportrapといえば、Blank Bansheeが流行らせて、VaperrorやGiant Clawが発展させたVaporwaveのサブジャンル。ここ数年で最大の新人といえば、NxxxxxSの他にないだろう。
『Fujita Scale』(2014)の衝撃からはや4年、勢いを落とすことなくリリースを続けている。最新作の『FRIENDZONE』では、もはやVaporwaveでくくるのが申し訳ないレベルで洗練されたビートを披露した。(本人はBandCampのタグにせっせと#vaporwaveとつけてくれている。ありがたい限りだ……)
⑤異色のアート集団―Death’s Dynamic Shroud.wmv
ちょっと衝撃的な進撃を続けているのが、Orange Milk Records所属のDeath’s Dynamic Shroud.wmv。
それもそのはず。実はメンバーに、レーベルオーナーのGiant Clawと、アルバム『Ⅱ』で有名なWinter Sleepを擁した夢のスーパーグループなのだ。
もともとアート志向のオレンジミルクらしく、グリッチたっぷりでシュルレアリスティック。この先鋭的なサウンドに、君はついてこれるか……!?
⑥いま一番ドープな男―Flamingosis
ランキングのところでも登場したが、Flamingosisの勢いはやっぱり驚異的だ。
もはやVaporawveでもFuture Funkでもくくれない、Hiphopに寄りまくったサウンド。取り上げるべきか迷ったが、ジャンルにおける重要度は疑い得ないだろう。
最近YouTubeでLo-Fi Hiphopの24/7ラジオが流行しているが、実はこのルーツは謎に包まれている。とりわけ、アニメをGIF風にループさせたものはArtzie Music発だと思われる。Flamingosisもまた、Artzie出身。
ある意味で、VaporwaveとLo-Fi Hiphopの隣接点に位置するのがFlamingosisなのではないか。これはまだ仮説だ。Lo-Fi Hiphopについてはまだまだ調べないといけない!
ひとまず無心でこのドープなビートを堪能すべし。
⑦スーパースター大集合!―Sailor Team
Future Funkの精鋭を集めた夢のグループ。
MACROSS 82-99、Night Tempo、Desired、ナニダトnanidato……もう泣かせてくれ!!
昨年の来日公演に行かなかった僕は、一生床を舐めながら生きるしかない。
しかも、Neoncity Records傘下で同名のレーベルまではじめちゃった。
今年の2月には、ついにスプリットEP『Sailor Team Hits!』をリリース。
Future Funk勢の進撃は、とどまるところを知らない。
以上。Vaporwaveの主要リリースをカタログ化したよーって話と、こいつらが次世代のアーティストたちだ!って話でした。
Excelデータについては、落ち着いたら公開する予定です。まだしばらく先になりそうだけど、それまで需要あるといいな……。正直、卒論を書き終えてから現在まで半年近くシーンを追っていなかったのだが、これを機にだいぶ知見が広がった。
次はこれを「論じる」ステップだな。研究生活はまだまだ続く……。