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インターネットと美学研究

Vaporwave A to Z:蒸気波仮想世界地図―――Vaporwaveサブジャンルまとめ

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夏休みの自由研究、第2弾!

Vaporwaveのサブジャンルについてまとめました

このジャンルの分岐はちょっと常軌(蒸気)を逸していて、なかなか手に負えないのが実情。

 

ジャンル分けについてはこちらを参考にしています。(以下GAM

また、Vaporwaveのヴィジュアルイメージによるカテゴライズは、こちらを参照。(以下ER)

 

和訳はともにショコラ (@chocolat___)さんのサイトで読めます。

 

視覚的な要素と聴覚的な要素は、Vaporwaveにとってともに欠かせないもの。

ここでは、〇〇という(聴覚的)ジャンルに付随しがちな△△というヴィジュアルイメージ、みたいなカテゴライズも試みてみたい。

 

 

 

本記事は約1年前にNAVERまとめで書いた「蒸気波歴史大百科全書」を更新するものであり、Vaporwaveを体系的に学びたい人のための地図たらんとする試みである。

ミニマルなリスト化を心がけたため、細かい歴史的事実、とりわけレーベルごとの役割みたいな話は割愛した。これは歴史大百科全書ではなく、世界地図なのだ。

ミニマルといっても、アホみたいに長いので注意だ。

 

 

さっそく行きましょう。

 

 

 

1.Eccojams/Plunderphonics

(おそらく)最も古い形態のVaporwave。

全ての始まりはOneohtrix Point NeverがChuck Person名義で2010年にリリースしたアルバム『Chuck Person's Eccojams Vol. 1』。彼が提唱したスタイルこそ、Eccojams

往年のポップスをサンプリングし、スローダウン、リヴァーブ、エコー、ディレイ、グリッチなどのエフェクトを施し、ループさせる。

とりわけ、ヴォーカルをスローダウンさせて亡霊のうめき声みたいにする編集は、チョップド&スクリュードと呼ばれる。これはもともと90年代にDJ Screwという人物が広めたDJプレイの技法である。

 

ちなみにPlunderphonicsとは、既存の音源を用いたアプロプリエーションの全般を指す用語。ここでEccojamsとは、Plunderphonicsの一種だと考えてもらって大丈夫。

Eccojamsはミニマルな実験であり、メタ音楽である。現代美術でいうところのレディメイドや、ポップアートの系譜に連なる実践。

 

さて、Vaporwaveの金字塔アルバムであるMacintosh Plus*1『Floral Shoppe』も、Eccojamsを基盤に作られている。

代表曲「サフランク420 / 現代のコンピュー」は、Diana RossIt's Your Move」をチョップド&スクリュードしたもの。Vektroid本人もEccojamsからの影響を公言している

 

その他の特徴としては、楽曲の短さが挙げられる。「リサフランク420 / 現代のコンピュー」は例外的に長い(7:22)が、平均的なEccojamsは2分前後で、しかもたいていがブツ切りで終わる。

Luxury EliteSaint Pepsiによる名盤『Late Night Delight』もEccojamsの系譜上に連なる作品だが、このトラックリストを見よ。笑っちゃうほど短い。

GAMでも指摘されているが、このような楽曲構成は「曲のサビ部分だけをループで再生し、飽きたら次の曲へ飛ばす」というような音楽体験をシミュレートしている。新作映画のテレビCMを目にするたび、タイアップ楽曲のサビ部分だけを執拗に聞かされるのは、現代のわれわれにとってありふれた体験だろう。

 

注意してほしい。たびたび見られる誤解で、「Vaporwaveは小刻みなサンプリングを執拗にループさせることで、サイケデリックなトリップ効果を生み出す」というものがあるが、これは「リサフランク420 / 現代のコンピュー」のようなごく一部の楽曲にしか当てはまらない。多くのEccojamsは、トランス状態に至るはるか手前で唐突に終わってしまう。Adam Harperもこれについて指摘し、Vaporwaveとはむしろ「トランス状態からあなたの目を覚ますようなもの」と定義している。

 

要はEccojamsとは、名実ともに古き良きVaporwaveのスタイルである。個人的な好みを言えば、これこそが王道のVaporwaveだと思っている。

この先、変なビートを加えたものや、コンセプトに寄りまくったものや、もうサンプリングをやめちゃったものまで出現するが、そもそもの始まりはこのようなスタイルだったことを念頭に置いて先へどうぞ。

 

まとめ:Eccojams/Plunderphonics

  • サンプリングを用いる
  • 奇怪なエフェクトをかけて、ループさせる
  • トラックはたいてい短い
  • Vaporwaveの古典的なスタイル

 

 

2.Utopian Virtual

 エコジャムと同じぐらい古典的なスタイルが、こちらのUtopian Virtual

Chuck Personと並ぶもう一人のゴッドファーザーJames Ferraro『Far Side Virtual』に起源を持つ。

前者が実験としてのメタ音楽だったのに対し、ユートピアン・ヴァーチャルはコンセプチュアルかつナラティブ。概念を重視する。

ここでサンプリングされるのは、古いWindowsMacの起動音、Skypeなどソフトウェアのシステム音源。一般的に「音楽とみなされていない音源」をあえて使う点に特徴がある。

他にも、一般的に「音楽とみなされていない音源」としては、企業のプロモーション動画やデパートのBGMに用いられる、ミューザック(エレベーター・ミュージック)のサンプリングも特徴的だ。

 

何度か別の記事でも指摘してきたが、Vaporwaveには大きく2つの系譜が存在する。

一つめが、前述のEccojams。Chuck PersonからVektroidへと至る、サンプリング遊びとしてのVaporwave。

もう一つが、James FerraroからINTERNET CLUBを経由して、サブジャンルMallsoftへ至るコンセプチュアルの流れ。これがUtopian Virtualである。

 

Utopian Virtualのコンセプトとは、文字通り「架空のユートピア」。ただし、未来はレトロ・フューチャーなものとして描かれる。

GAMでは「ポスト冷戦時代の現代における、理想主義/楽観主義への渇望」と批評されている。「世界的不況、テロリズム、紛争といった現実からの逃避」。

 

それらの表象を助けるように、クリーンで透明感のあるサウンドが添えられる。サウンドとしては、MMORPGの空マップBGMを想像していただくとわかりやすい。

ヴィジュアルイメージとしては、「モダニズム建築」「夏や海(ER)」の他にも、「快晴の青空」「天気予報」がしばしば用いられる。天気予報に関して、典型的なのはECO VIRTUALだろう。音楽のスタイルとしてはややEccojamsに寄っているが、コンセプトとしては明らかにUtopian Virtualを志向している*2

 

現実生活からの「庇護所」を描くのはVaporwaveの主要なコンセプトだが、これを最も体現しているのがUtopian Virtualであろう。だからこそ、ユートピアは悲観的なものであってはいけない。

架空のユートピアは完璧に殺菌されていて、いかなる煩悩も存在しない。

ただし、架空のユートピアは架空であるがゆえにある種の空虚さがつきまとう。それは資本主義が挫折した消費社会の夢であり、同様に共産主義が作り出せなかったコミュニティの夢である。

果たせなかった」を「庇護所」として提示するところにUtopian Virtualの(そしてVaporwaveの)アイロニーがある。予報ハズレの雨に降られ、「天気予報では晴れだったのに……」とつぶやくならば、それはもうVaporwaveなのだ。

 

まとめ:Utopian Virtual

  • 架空のユートピアを描く
  • 「音楽とみなされていない音源」をサンプリングしがち
  • クリーンで透明感のあるサウンド
  • 「果たせなかった夢」へのアイロニー

 

 

3.Post-Internet/Hypnogogic Drift

ジャンルの連続性から言えば、次にMallsoftを紹介するのがベターかもしれないが、本記事はなるべく時系列順に紹介していく。

Post-Internetもまた、Vaporwaveの最初期から存在していたスタイルである。またの名をHypnogogic Drift

Utopian Virtualと同様にコンセプチュアルなジャンルだが、こちらはよりダウンテンポ悲観的。Post-Internetで描かれるのはコンピュータ化され、人間の居なくなった未来のディストピアである。

Chuck PersonJames Ferraroの影に隠れ、やや目立たないながらもVaporwaveのプロトモデルとなった重要アーティストに、骨架的がいる。『Holograms』『Skeleton』など、ゾッとするほどダウナーな作品群をリリースしている。

 

Post-Internetのサウンドは、シンセサイザーが中心で、リヴァーブが強め。マイナー調で、ビートのないアンビエント(後述)が多め。

コンセプトとしてはSFの影響も大きい。後にHKE率いるDream Catalogue*3が文字通りドリーミーな楽曲をリリースしまくる際、参照していたのはPost-Internetに見られるSF要素であろう。

 

よく使われるヴィジュアルイメージとしては「時代遅れの技術やデザイン(ER)」、具体的にはブラウン管のPCや、しょぼいCG映像が挙げられる。

かすんだスカイライン(ER)」や「薄暗い路地」もたびたび描かれ、ER風に言えば「多すぎる情報による世界認識の混乱」「世界そのものの不安定さ」が表象されている。ぼんやりしててわけがわからない感じは、アンビエントと相性がいい。

 

Vaporwaveに加速主義や思弁的実在論*4を読み取れるのも、こういったPost-Internet的表象だろう。人間ではなく、モノが指揮を執るディストピア。デジタルテクノロジーへの不安が、Vaporwaveを通して描かれている。機械が人間を追い越す時代は、すぐそこまで来ている。

HKE自らの作品に#singularityのタグを付けているのも、示唆的だろう。

 

まとめ:Post-Internet/Hypnogogic Drift

 

 

4.Signalwave/Broken Transmission

古参ながらも、そのラディカルさからフォロワーに恵まれなかった悲劇のジャンルSignalwave。またはBroken Transmission

VektroidがFuji Grid TV名義でリリースした『Prism Genesisや、INTERNET CLUBが░▒▓新しいデラックスライフ▓▒░名義で出した『▣世界から解放され▣』が代表作。

 

主に日本のCMやTV番組の音声をサンプリングし、猟奇的なまでにループさせたもの。

GAMによれば、これも情報過多な社会を表象し、テレビ番組を次から次へとザッピングしてゆく体験をシミュレートしているとのこと。

 

スーパー使いやすい!

Vaporwave自体しょーもないジャンルだが、このサブジャンルのしょーもなさはすごい。いくらなんでも初見殺しすぎる。

 

ヴィジュアルイメージとしては、「90年代のTV番組(ER)」「日本的、アジア的イメージ(ER)」が多い。おそらくはYouTubeからダウンロードしてきたであろうCMのクリップを、延々とループさせる。その他、しょぼいCGやVHSっぽい質感もしばしば使われる。

 

数少ないフォロワーの一人。テレビ体験というアーティスト名が全てを物語っている。 

 

ところでGAMではこれを「消費主義への批判」と位置づけているが、Signalwave含め「Vaporwaveは消費への”批判”なのか」という問題は一考の余地がある。

消費社会の表象には常に両義性が伴う。すなわち、Vaporwaveは消費主義への批判であってもいいし、消費主義への礼賛であってもいいのだ。とりわけ、初期のVaporwaveにはINTERNET CLUBVektroidのような消費社会への問題意識を持ったアーティストが多かった*5のに対し、Luxury Elite以降は「ゴージャスなもの*6」として消費社会を表象しているアーティストも少なくない。

Vaporwaveは消費社会へのプロテスト・ソングかもしれないし、消費社会への賛美歌かもしれない。Signalwaveを聞く限りではどっちともとれないが、個人的にはそこにアップテンポなものを聞き取れるため、やや「賛美歌寄り」のものとして位置づけたい*7

 

まとめ:Signalwave/Broken Transmission

  • 日本のCMやTV番組の音声をサンプリング
  • TV番組のザッピングをシミュレート
  • 消費社会への目線

 

 

5.Vaportrap

Blank Bansheeというゴリゴリのトラップ・ビートメイカーが、自身の作品に勘違いで#vaporwaveタグを付けてしまったことから生まれたVaportrap

よって、誕生日は『Blank Banshee 0』がリリースされた2012年9月1日。

GAMでは「Hardvapourにいいところを完全に持っていかれてしまった」と言っているが、まったくそんなことはないぞ。

 

ちょっとノスタルジックなだけで、ぶっちゃけ聞くに堪えないVaporwaveに、イカしたTrapのビートを加えたのがVaportrap。割りとしっかりしたフォロワーがいるサブジャンル。

PLUS100 Records主催のVaperrorや、

 

Orange Milk Records主催のGiant ClawもいいVaportrapを作っている。この2人に至っては、もはやトラップというか、ジューク/フットワークみたいなサウンドになっている。

 

ちょっとズレるけど、ドラムンベースジャングル寄りの作品をリリースしている、Bbrainzってアーティストもいる。

 

また、ヴィジュアルイメージにはテクノロジー的な表象(CGが多め?)が使われる。この辺、かろうじてVaporwaveであることを忘れていないみたいだ。

 

ところでBlank Bansheeといえば、2016年に彼の楽曲を使った「Simpsonwave」というMAD遊びが流行っていたので、ついでにご紹介。

 


まとめ:Vaportrap

  • トラップのビートを加えたVaporwave
  • ジューク/フットワークみたいな楽曲もある

 

 

6.Future Funk

まさに大本命。ある意味Vaporwaveよりも流行ってるVaporwaveのサブジャンル。それがFuture Funk

Eccojamsのサンプリング美学をそのままに、フィルターハウスの裏打ちビートを加えたEDM。DubstepからBrostepが生まれたように、VaporwaveからFuture Funkが生まれたのだ。

 

ルーツとなったのは、Saint Pepsiのアルバム『Hit Vibes』。もともとは#vaporboogieとして始まったサブジャンル。2013年5月31日が誕生日。

サンプリングしているのはWhispers山下達郎。ただでさえダンサブルな楽曲を、さらにビート感強めでリミックスする。

 

ジャンル発展のきっかけとなったのは、マクロスMACROSS 82-99。

セーラームーンオタクである彼が、(著作権無視で)アニメのヴィジュアルイメージを使いまくったところから、VaporboogieはFuture Funkとなった。

『Sailorwave』がリリースされたのが2013年12月31日だから、これが洗礼日といったところか。

マクロスは前述の山下達郎に加え、角松敏生竹内まりや*8といった日本の80年代シティ・ポップを中心にサンプリング。これもジャンルの方向性を決定したと言えよう。

いまではVaporwaveからFuture Funkを経由し、日本の80年代シティ・ポップにドハマリしている外国人さんも少なくないとか……*9

 

彼を含め、Future Funk勢の多くが拠点としているのがYouTubeチャンネルのArtzie Music

そもそもVaporwave初期のヴィジュアルイメージでは存在しなかった「アニメ」を全面的に取り入れ、GIF画像風にループさせる。全く新しい美学を作り出したのが、Future Funkである。

 

享楽的でアップテンポ。消費を全身全霊で楽しむ姿勢が、Future Funkには見て取れる。これはメタ音楽としての内省的な視点を持っていたVaporwaveとは正反対の態度だ。商業的な大衆文化を批判していたVaporwaveが、ついに商業的な大衆文化と化してしまった。

「Future FunkはもはやVaporwaveではない」というのは簡単だろう。しかし、「日本」という共通のモチーフに加え、「レトロ」への志向、レディメイドの美学など、その連関は数えようとすればキリがない。

奇妙な従兄弟かもしれないが、Future Funkは紛れもないVaporwaveだと、個人的には思う。

 

まとめ:Future Funk

  • 日本の80年代シティ・ポップをサンプリング
  • ダンサブルなフィルターハウス
  • アニメを全面的にフィーチャー

 

 

7.Late-nite Lo-Fi


Post-Internetと「薄暗さ」を共有しつつも、まったく正反対の価値観を持つのがLate-nite Lo-Fi

夜のバーで孤独を愉しむような、自己陶酔的楽観主義をコンセプトとする。人間が機械に取って代わられるのなら、それまでの刹那を生きようとする、ポジティブな音楽である。

だからこそLate-nite Lo-FiはLuxury Eliteら「Vaporwave第2世代」によって作られた。Post-Internetという絶望の先に、Late-nite Lo-Fiという一筋の光。自己破滅的な美学は、初期のVaporwaveにはあまり見られないものであり、興味深い。

 

そんなオトナな日常を彩るのが、スムースジャズなどのムーディな音楽。それも、会話の邪魔にならない程度に、ローファイ加工を施されたもの。ジャジーなギターやサクスフォン。どこまでも「オシャレ」なサウンド。艶かしく、ロマンチックで、都会的。

手法としてはEccojamsのそれと似ている。特定のコンセプトに偏ったEccojamsといったところか。

 

ジャンルとしてのLate-nite Lo-Fiを牽引していたレーベルといえば、やはりLuxury Elite率いるFortune 500だろう。

Future Funk誕生の基盤にもなった Fortune 500だが、もう一方の側面として、このようなムーディなアルバムをリリースしてきた。レーベルカラーは、黒と金。夜の暗闇と、ビルの灯り。

 

ヴィジュアルイメージは、やはり「」「都会」。ERのリストなら「かすんだスカイライン」が該当するだろう。

 

まとめ:Late-nite Lo-Fi

  • スムースジャズなど、ムーディな音楽をサンプリング
  • ほどよいローファイ加工
  • 夜や都会のヴィジュアルイメージ
  • 都会的で自己陶酔的な美学

 

 

8.Mallsoft

数あるコンセプトの中でも、「ショッピングモール」に全振りしたのがMallsoft

架空のショッピングモール「ヴァーチャル・プラザ」を舞台に、名もなき人々の消費活動が描かれる。

ビジュアルイメージに用いられるのは「エスカレーター/階段」「大理石」「商品」「ブランドロゴ」、その他ショッピングモールにまつわるもの多数。また、「ヤシの木」もよく見かけるのは、ショッピングモール内に設置された人工の観葉植物を意識してのことだろう。

 

先駆け的作品としては、Disconsciousの『Hologram Plaza』。

「Elevator Up」 から「Lunar Food Court」まで、全体を通して架空のショッピング体験が描かれる。個人的にもすごく好きな作品で、卒論でもケーススタディとして取り上げた。

 

Mallsoftを完成させたのが猫 シ Corp.

おそらくはどこかのショッピングモールで録音された22分超のトラックは、街頭のノイズもそのまま使われている。われわれがショッピングモールで耳にする音楽とは、まさにこのような輪郭のぼやけたサウンドではなかっただろうか。

Palm Mall』が2014年10月2日リリースなので、Mallsoftの誕生日もこのあたりかな。

 

大枠としてのMallsoftはUtopian Virtualから多くの影響を受けている。ミューザックをサンプリングする点や、消費社会への視線、それらを拡張した先が「ショッピングモール」だったのだ。

ここでも「音楽とみなされていない音源」として、ショッピングモールのBGMを用いている。買い物というメインの活動を促進しつつも、決定的に付随することのない聴取体験を、Mallsoftはあえて再生産するかたちでシミュレートする。

サウンドもまた、Utopian Virtual流のクリーンでさわやかなものを特徴とする。

 

東浩紀らのショッピングモール論*10に、「モール性気候」の議論があったかと思うが、なるほど外界から独立した環境としてのショッピングモールは、Vaporwaveの志向する「庇護所」に最も近いのかもしれない。

そこではあらゆる物品が揃い、モノどころか生活そのものが提供される。そして、「ショッピングモーライゼーション」を通して、モール的美学はわれわれの日常まで侵食してくる。

消費社会の集大成にして、最後のユートピア、それがショッピングモールである。

 

まとめ:Mallsoft

  • 「ショッピングモール」を全面フィーチャー
  • 買い物しながらミューザックを聞く体験をシミュレート

 

 

9.Vapornoise/Vaporgaze

Vaporwaveの雑音的要素を突き詰めた形態。シューゲイザーに似ているところからVaporgazeVapornoiseはざっくりSignalwave(前述)とVaporgazeを包括した音楽を指す。

ヴィジュアルイメージとしては、「グリッチアート」が多数。聴覚的グリッチであるノイズと対応させているのだろう。

シーンとしての盛り上がりは大したことなく、数名のアーティストが実験的に作っている程度。

 

中にはメタルの要素を取り入れた作品も。この§E▲ ▓F D▓G§って人が代表格と見てよさそうだ。一体どうやって読めっていうんだよ。

あとはClearVisionDream Productionsとか。

 

§E▲ ▓F D▓G§#oceangrungeというタグも使用している。グランジとは……。

なるほど、Vaporwaveがロック・ミュージックに接近した形態と言えるのかもしれない。

ただし、ロックのグランジとは違い、ノイズやグリッチを施すのはコンピュータである。自動化されたテクノロジーが主導となる点は、Post-Internetからの連続性を見て取れるのではないか。こういうところにしっかりとVaporwave"らしさ"がある。

 

まとめ:Vapornoise/Vaporgaze

 

10.Hardvapour

「Vaporwaveは死んだ」 の宣誓とともに、HKEが高らかに掲げたのがHadvapour。誕生は2015年末ごろ。

テクノ寄りのハードなビート。なよなよしたVaporwaveを木っ端微塵にしようとする暴力性が、サウンドの節々に聞いて取れる。「Vaporwave is Alive」といって、『Floral Shoppe』の「ブート」をしばらく再生したあと、次のトラックで「The Hunt Is On」というのはものすげぇ悪意だ*11

Hadvapourは明確に「アンチVaporwave」を掲げる。

 

そもそもDream Catalogueの音楽には、アンチVaporwave的な側面があった。2814の「サンプリングやめました」から始まり、Vaporwaveの必要条件を次々切り崩してきたHKE。コンプレックスがすごい。

 

wosX(Wolfenstein OS Xも代表的なアーティストの一人。ウクライナ*12で、Harvapour専門のレーベルAntifurを主催している。

2016年にはHadvapourばっかり集めたコンピも出ている。

見たところ、身内で盛り上がってるだけじゃね?といった印象だが、盛り上がってるのは確かだろう。 サブジャンルのくせして、今日紹介した中で唯一Wikipediaの単独ページがある。

ウクライナ人のwosXが牽引しているだけに、東欧風のヴィジュアルイメージが多用されるのも特徴。

 

それよりも、コイツらVaporwaveになんの恨みがあるんだ……?ってのが個人的に気になる。

Hardvapourが「Vaporwaveかどうか」は、Future FunkやVaportrapが「Vaporwaveかどうか」よりも深刻な問題のように思える。

 

まとめ:Hardvapour

  • アンチVaporwaveを掲げた攻撃的なサウンド
  • テクノに影響された強いキック

 

 

11.その他(Hypnagogic, Ambient, Experimental, etc

 最後にいくつか、ジャンルと混同されがちな概念をまとめる。

①Hypnagogic

・字義通りの意味では「入眠を誘うような」音楽のこと。Vaporwaveに先行するジャンル、Hypnagogic popに由来する。というよりは単に、VaporwaveがVaporwaveと呼ばれる前の呼称だったっぽい。

・現在では、「入眠を誘うような」「ドリーミーで甘美な」サウンド全般に対する形容詞として用いられている。Dream CatalogueのアルバムはたいていHypnagogic。

・見れば見るほどわからなくなってくる作品リストは、以下を参照。

・後述するAmbientとほぼ同義。

 

②Ambient

・音響面を重視した環境音楽全般を含む音楽ジャンル。Vaporwaveのはるか以前から存在する。レーベルwarpのアーティスト(Aphex Twinとか)が有名。

・コードらしきものがなんとなく漂っているような音楽を指して使われることが多い。ビートなしのものが多い。「入眠を誘うような」音楽という点では前述のHypnagogicとほぼ同義。

・おそらくはHypnagogicが聞いた印象でのカテゴライズなのに対し、Ambientは作る側の採るスタイルでのカテゴライズ。

 

 

③Experimental

・字義通り「実験的」な作品全部を包括する、超いい加減な用語。普通のVaporwaveがやってなさそうなことをやってるアルバムには、たいてい#experimentalタグがはられている。

SignalwaveVapornoiseあたりが、いわゆるExperimentalの典型じゃないかな、と思う。

・個人的にはdeath's dynamic shroud.wmvなど、Orange Milk Records周辺のアーティスも、実験的だと感じる。ただ、何を「実験的だ」と感じるかは主観的すぎる問題だな。

 

④Classic-Vaporwave

・Vaporwaveファンなら皆さんご存知、通称「例のMEGAフォルダ」で使われていた「Classic Style」がもと。詳細はノーコメント。

・およそ2012年末までの、初期のVaporwaveを指す概念。ザ・Classicといえば、やはりVektroidINTERNET CLUBになってくる。

・Eccojams、Utopian Virtual、Post-Internetをざっくり包括するカテゴリーだと思っても大丈夫そう。

 

⑤Post-Vaporwave

・われこそはVaporwave以降!を名乗っている人たち。たいていは自称。

・個人的にはHKEDream Catalogue以降が「Post-」感あるなぁ、と思う。Vaporwaveっぽいノスタルジーを志向しつつ、サンプリングを用いない音楽は「Post-」だと思う。

 

⑥その他のその他

・みんな好き勝手に◯◯waveを名乗っている。

・#pizzawave ピザウェイヴ

・#sharkwave サメウェイヴ

・ただのポメラニアン

 

 

 

 

 

 

以上、Vaporwaveのサブジャンルたちでした。

 

もうブームから何年目だよ、ってぐらいの時間が経ったのに、いまだに日本語の情報が全然足りていないのが現状。

微力ながら、今後も引き続きジャンルの紹介に努めたい。

Long live vaporwave.

 

 

 

*1:Vektroidの別名義。

*2:そもそもあるVaporwaveがEccojamsであり、かつ、Utopian Virtualであるのはなんら珍しいことではない。

*3:HKEが主催していたレーベル。意識高い系Vaporwave。現在は別の人に譲っている。

*4:僕が卒論で勝手に読み取っていただけ。

*5:インタビューなどを参照。

*6:MASSAGE誌のインタビューより

*7:もっとも、INTERNET CLUB本人は自身が「反資本主義者」であると各所で発言している。しかしこれは批評なので、作者の意図だけを参照する義理はない

*8:[追記]ブクマの方から誤字のご指摘。竹内まりや西内まりやは似て非なるもの……。

*9:2017年に放送された『YOUは何しに日本へ?』で、シティ・ポップのレコードを爆買いしに来日した方が話題になっていた。この人も、入り口は多分Future Funkだろう。

*10:『思想地図β vol.1』『ショッピングモールから考える ユートピア・バックヤード・未来都市』

*11:言うまでもないが、こういうマッチョな音楽は苦手だ。

*12:[追記]wosX自身はカナダのモントリオール在住で、本名はMoshe Lupovich。名前的に東欧系かなぁ、と思っていましたが、ウクライナ人っていうのは勘違いかもしれない。