ホラーとはなにか|ノエル・キャロル『ホラーの哲学』、ジャンル定義論、不気味論

ノエル・キャロル『ホラーの哲学』の邦訳が出版され、訳者の高田敦史さん(@at_akada_phi)より一冊ご恵贈いただきました。ありがとうございます。大好きな本がまたひとつ日本語で読めるようになったということでたいへんうれしいです。内容としてもキャッチーで面白いので飛ぶように売れてほしいところですね。

ラージャンルについての理解が深まるだけでなく、一般的に分析美学や、あるジャンルを哲学的に論じていくやり方について学べるよい本です。個人的には、ブログに載せたRed Velvet論や『ユリイカ』に書いたビリー・アイリッシュ論でも批評のとっかかりとして役立った本なので、「批評に使える分析美学」のレアな一例かもしれません。

かいつまんで論旨を確認した後、個人的に気になるふたつの論点についてかるく解説しましょう。ひとつはジャンル定義におけるキャロルのスタンスについて、もうひとつはより近年の展開としての「不気味なもの」論について。

  • 危険で不浄なモンスター
  • 定義と反例と範例
  • 不気味なものと「テイルズオブドレッド」
  • その他いろいろ
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ジェロルド・レヴィンソンと芸術に関する文脈主義

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ジェロルド・レヴィンソン[Jerrold Levinson]は現在メリーランド大学で卓越教授を務める美学研究者である。音楽の存在論における「指し示されたタイプ説」や、解釈と意図における「仮説意図主義」、芸術の意図的=歴史的定義など、さまざまなトピックにその後のスタンダードとなるような立場を提供しまくっている、キレキレの論者だ。*1

レヴィンソンの芸術哲学の中心をなすのは、「文脈主義[Contextualism]」という考えである。本稿では「美的文脈主義[Aesthetic Contextualism]」という2007年の論文をもとに、レヴィンソンという論者の思想的コアを手短に紹介する。いまや分析美学ではデフォルトといっていい立場である文脈主義の一般的なガイドでもある。

*1:ジェロルドかジェラルドかの表記ブレがあるが、いくつか見た動画ではジェロルドで紹介されているように聞こえるので、私=『分析美学入門』はジェロルドを推している。

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Make me feel goodなもの

いい気分だ 分かってんだぜ

──── I Got You (I Feel Good) - James Brown

 

先日の応用哲学会で、美的価値論に関わる発表をしてきた。

趣旨としてはこの文脈でモンロー・ビアズリーを読み直す、というものだったが、コメントの多くはその前提、既存の反快楽主義に対する私の懸念に対する懸念として集まった。アフターフォローのいくつかは日記に書いたのだが、こちらでも考えをまとめておこう。*1

*1:2022/05/282022/05/31などを参照。

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