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インターネットと美学研究

「画像表象とリアリズム」#2:Kendall Walton "Transparent Pictures: On the Nature of Photographic Realism"(1984)

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写真論の研究ノート、第二弾。

今回は初心に返って、ケンダル・ウォルトンの「透明な画像」(1984)を読み直しました。

 

分析美学における写真論としては古典中の古典。論文としては2003年に山形大学清塚邦彦さんが紹介されているが、翻訳はまだ出ていない。……誰かやりませんか?

 

本論文は「写真は透明である」と宣言し、予想される反論に対し応答しつつ、写真のメディウム・スペシフィシティを論じていくもの。

メディウム・スペシフィシティとは言っても、ウォルトンの議論はクレメント・グリーンバーグロザリンド・クラウスらがやっていたような、いわゆる「モダニズム」「ポスト・モダニズム」に与するものではない。あくまでも日常的な直観によりそった、実践の分析を通して、写真というメディアのありかたについて語る。The「分析美学」といった感じで、このフィールドにおける議論の仕方についても、大変勉強になった。それから英語が易しい(重要)。

 

どんなもんか、見てみましょう。

 

  • はじめに
  •  1.写真的リアリズムについて
  • 2.写真は透明である
  • 3.「写真を通して見る」と「虚構的に見る」の区別
  • 4.「透明性テーゼ」への反論と応答
  • 5.反事実的な依存関係
  • 6.自然的意味と非自然的意味
  • 7.「写真的な構築物」の問題
  • 8.知覚の構造と世界の構造におけるアナロジー
  • 9.余談とまとめ
  • 主要な反論の紹介
    • ①「写真は絵画と同じで、透明ではない」
    • ②「写真は透明だが、絵画も透明だ」
  • コメント
    • 参考文献

 

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Vapormemeとジャンクの美学:もう一つの(悪趣味な)Vaporwave史

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蒸気波の歴史について

Vaporwaveは錬金術だ。

それは方法論からして、ジャンク音楽を集めたサウンドコラージュである。時代遅れのポップソング、毒にも薬にもならない商業用BGM、耳障りなCM音声……それらをこねくり回した先に、ありもしない架空のノスタルジーを生み出してしまった。

 

ほどなくしてVaporwaveは”死んだ”。具体的にはVektroidINTERNET CLUBという二大オリジネーターがシーンから離れ、粗悪なまがい物が蔓延ったことで、ジャンルとしての自立性を失ったとみられる。それからLuxury EliteSaint Pepsiら、僕が「第二世代」と呼んでいるアーティストたちが出てきて、Future FunkMallsoftが生まれ、やがて2814の『新しい日の誕生』と共にPost-Vaporwave時代へと突入……。

これが大まかなVaporwave史だ。少なくとも、僕が各所で書いてきたのは、そのような進歩史観に満ちた”通史”と言わざるをえない。

 

しかし、改めて反省するまでもなく思いつくことがある。

「Vaporwaveに進化や発展なんて、そもそもなかったのではないか?」

 

ポスト・モダニズム

先日、DOMMUNEの蒸気波特集に出させていただいた際、ちらっと話したが、「Vaporwaveは現代アートにおけるプランダーフォニックスやアプロプリエーションを踏まえた、極めてポスト・モダン*1な実践」だと考えている。それがいかに脱ポスト・モダンを図り、ポスト・ポスト・モダンに至るか、という話*2はまた別の機会に譲るとして、少なくとも、ポスト・モダンを出発点にするのは悪くなさそうだ。いずれにせよ、蒸気は無から生じるのではなく、沸騰した水から生じる。

 

仮に、ポスト・モダン的な「歴史の終わり」「創造性/作家性の欺瞞」「シミュレーショニズム」といった美学の上にVaporwaveが乗っかっているのだとすれば、そこに単線的な進化史などありえない。Vaporwaveとは究極的な意味で、断片であり、無記名であり、デジャヴなのだ。

 

今日、紹介したいのはVapormemeと呼ばれるVaporwaveのサブジャンルだ。*3

いや、Vapormemeはサブジャンルですらない。EccojamsやFuture Funkのような方法論もなければ、MallsoftやPost-Internetのように特徴的なコンセプトがあるわけでもない。

Vapormemeにはなにもない。おそらくインターネット史的に見ても、この用語に執着してきた人間はどこにもいない。僕を除いて。

Vapormemeとは聞き流され、無視され、非難されるべきカテゴリーであって、それ以上でも以下でもない。というより、無視されてきたので、それは形あるカテゴリーですらない。

よって今日、僕がオバケウェブでやりたいことは、このVapormemeという現象にカテゴリーとしての輪郭を与えることにほかならない。ただし、すぐに後述する通り、それは自律した確固たるカテゴリーではありえない。

 

ジャンル純粋性の夢

Vapormemeに着目することで、僕が主張したいことはなにか。あらかじめ言っておくと、それは「Vaporwaveらしさ」あるいは「Vaporwaveの純粋性」といった概念の本質的不可能性だ。

Vaporwaveに関してたびたび見られる論争だが、「この作品はVaporwaveかどうか」「このようなイメージはVaporwaveかどうか」という、カテゴライズ問題がある。かたや「Classic-Vaporwaveだけが”真の”Vaporwaveだ」と考えている古参がいるかと思えば、街角で奇妙な日本語を見かけただけでも「Vaporwaveだ!」と言う人もいる。おのおのが各々の「Vaporwave基準」を持っており、たびたび食い違う。

 

そのような状況を多少なりとも改善しようという意図でもって、書かせていただいたのが2つの「Vaporwave A to Z」だ。

「蒸気波歴史大百科全書」も「蒸気波仮想世界地図」も、記述的な情報というより、規範的な提言であることを白状しておかなければなるまい。「客観的に言って、Vaporwaveとはこういうものですよ」というよりも、「僕はVaporwaveについてこう思いますけど、こういうことにしておきませんか?」というテイストが強い。僕はVaporwaveの自律性、純粋性、ジャンル・スペシフィシティを追求するモダニストであった。

しかし、以下ではむしろ、そのような規範的提言の不可能性に注目している。すなわち、「Vaporwaveらしさ」「Vaporwaveの純粋性」といった夢を侵蝕し、挫折させるものとしてVapormemeを位置づける

 

Vapormemeとは、常に異物としてVaporwaveの自律性を脅かす。結果として、Vaporwaveはポスト・モダニズム的な分裂を経験せざるを得ない。

「自律したジャンルとしてのVaporwave」という夢を語るなら、それは一連のVapormemeを一切無視することによってしかありえない。そして、Vapormemeを無視することは、そこまで容易ではないのだ。

 

 

 

Vapormemeとは何か

さて、Vapormeme(ヴェイパーミーム)とはなんじゃ。

そんなモノのカテゴリーはない、とかいいつつ、Vapormemeに関する言説が一切なかったわけではない。言うまでもなく、Vapormemeというのは僕が思いついた用語ではない。

ちなみに「Vapormeme」でGoogle検索をかけると、ヒット数は38,200件。「Vaporwave」全体が11,500,000件なので、単純計算でシーン全体にとって0.33%ぐらいの重要度だと言える。このしょーもない前置きからしてすでにVapormemeの美学が始まっていることを、見逃してはいけない。

以下、先行研究。

Vaporwaveのサブジャンル・ガイド。蒸気波仮想世界地図でも参考にした。*4

こちらでもささやかながら、Vapormemeという項目がある。記載されているキャプションは要約すると以下。

  1. 複数の美的様式を混ぜ合わせ、なんの目的もなく提示したもの。
  2. Vaporwaveは”簡単”に作れるという誤認から生まれたもの。
  3. 多くの人は、こういうものがVaporwaveであると誤解している。
  4. 本リストに載せたのは、これらが単なるチープな模倣であることを知ってもらい、Vaporwaveの評判を守るためだ。

とまぁ、ずいぶん手厳しい。そもそも、ジャンクな音源を用いることにある種の美学を掲げていたのがVaporwaveであるが、Vapormemeとは正真正銘のジャンクである。そこには、キッチュなものとしての美学すら欠如している。

 

具体的な音源を聞いてみよう。

 

「あれ、意外と良いんじゃない?」と思われるだろうか。それもそのはずで、bl00dwavebbrainzやの作品は、Vapormemeの中でも最大限マシな方だ。上記のサブジャンル・ガイドでも、「最低な作品群のうちで最良のもの」として紹介されている。スクリューしたポップソングをループさせているあたり、王道のEccojams作品のようにも聞こえる。

 

こちらは上記のガイドを踏まえた、Reddit上での議論。スレ主も「bl00dwaveやbbrainzを聞いてみたら、意外と良かったんだけど?」と言っている。bbrainz本人が登場してコメントしているあたりも萌えどころ。

 

ともかく、これらの作品のどの辺がヴェイパーミームなのかは、あとで考察するとして、まずは「最低な中でもとくに最低のもの」を聞いてみよう。

  

『Floral Shoppe』のBPMを原曲ぐらいまで戻して、「ナイトコア」と名付けたもの。

RYMでのレーティング「1.68/5.0」なのが全てを物語っているだろう。まさに、全身全霊でスベっている。かつ、作者はこの空前絶後の駄作をBandcamp上に放り込んだきり蒸発しており、清々しいまでに何の責任もとらない。

 

まぁ、もっとひどい代物はいくらでもある。

MAPL Labsという最低なレーベルのBandcampページへ行けば、こういった駄作がずらりと並んでいる。絶景なので、一度は訪問してみてほしい。

まさに地獄絵図。インターネットが墓場と言われる所以である。

 

さて、ぼんやりとVapormemeの輪郭が見えてきたところで、その特徴をまとめてみよう。大まかに見て、Vapormemeには三種類の系統がある。

 

①ありがちなイメージやエフェクトをテキトーに貼り合わせただけのもの

bl00dwavebbrainzはここに該当する。ほかにもVapormemeな作品としては、Stereo Component『Coastal Nostalgia』もこのタイプだ。

「Vaporwaveって、こういうもんでしょ」という、安易な選択によるプロダクションから、Vapormemeは生まれる。分かりやすくVaporwave的なイメージ、すなわちギリシャ彫像、日本語、安っぽいCGをペタペタと貼り合わせて、満足するような作品。

そしてこれがとりわけ重要なことだが、Vapormemeにはジャンルを前進させようとする意図が見られない。それは純粋な自己満足であり、いかなる意味でもシーンのためになっていない。*5

ここで注目すべきなのは、この種のVapormemeを作っているアーティストたちが、普段はまともなVaporwaveを作っている、ないし、非Vaporwaveのアーティストとして活動している点だ。

 

bl00dwaveはVapormemeな作品『Dream』に限らず、王道のEccojamsからFuture Funk寄りの楽曲までリリースしており、Vaporwaveシーンにおいてはちょっとした中堅と言えよう。

 

bbrainzは現在slythe名義で活動しており、『ECHO』みたいな良質なVaporwaveアルバムから、ジャングル要素を取り入れた『jungle2000』など、なかなか興味深い作品をリリースしている。

 

Stereo Componentに至っては、その正体はどうやらYung Baeらしい*6Yung Baeといえば、言わずもがな、Future Funkを牽引するビートメイカーの一人だ。

 

要は、こういったまともな活動をしている人たちが、片手間に作ったアルバムが、Vapormemeなのだ。

 

②過去のVaporwave作品を、パロディ化したもの

RYMにあるVaporwaveサブジャンルまとめでも、「パロディ」の項目が扱われている。

 

当然ながら『Floral Shoppe』のパロディ作品が圧倒的だが、『Floral Shoppe』以外にもしょーもないパロディが多数。

『Blank Banshee 0』のパロディで、『Blank Goofee 0』。

 

『Chuck Person's Eccojams Vol. 1』をナイトコアにしたもの。どんだけナイトコア好きなんだよ。

 

多くはパロディ元の音源をサンプリングしてめちゃくちゃにしたもの。言うまでもなく、そこには「パロディ元自体がオリジナルの音源をサンプリングしてめちゃくちゃにしている」事実との間に二重性がある。Vaporwaveのパロディは多くの場合、パロディのパロディにならざるを得ない。

より一層謎なのは、普通にまともな音源をなぜかパロディ形式でリリースしているようなケース。

例えばこちら、Macintosh Proを名乗る謎の人物。作品としてはよくできている分、名義やアルバム名『FLORAL SHOPPE INFINITE』によってパロディ化するのがもったいない。現在Bandcampの音源は削除されており、YouTubeの再生回数も涙がでるほど少ない。

本人によるRedditスレでも、「『Floral Shoppe』の名前を借りる必要なくね?」とツッコまれている。

 

Vapormemeがパロディであるケースも、前述のケースと共通して、ジャンルの前進に貢献していない。ここで行われているのは単なるリサイクルであり、ごくまれに再利用に適うレベルの作品が出来上がるが、大半はゴミからゴミを作り出しているに過ぎない。

 

あるいはTHE DARKEST FUTURE『FLORAL SHOPPE 2』のように、明確な悪意でもってパロディを行う作品もある。こちらのHKEによる変名であり、彼は他にもアンチVaporwaveな作品を多くリリースしている。*7

 

 

③Vaporwaveと一切関係ない画像/音源で、#vaporwaveを名乗っているもの

ところで、Vapormemeとは似て非なるジャンルとして、Memewaveと呼ばれるカテゴリーもあったり(なかったり)する。こちらは、より一般的に、インターネット・ミームとして広まっているイメージを、再度Vaporwaveに乗せたもの。

局地的に流行ってきた「Simpsonwave」も、Memewaveの一種と言えよう。こういった、後付けでVaporwave扱いされるイメージもまた、Vaporwaveの純粋性を脅かしているものと見られる。とはいえ、Simpsonwaveはまだ全然かわいいもんだ。これよりもひどいものになってくると、ペイントソフトで描いた棒人間みたいな画像をInstagramに上げて、#vaporwave呼ばわりしたものも散見される。

ミームとしてのVaporwave」は多くの誤解を生み、悪趣味なイメージや作品が大量に生産されている。

 

一年ほど前、レーベル「100% Electronica」主催のGeorge Clantonによって、#takebackvaporwave(Vaporwaveを取り戻せ)なる運動がささやかに展開された。

曰く「Vaporwaveについての誤ったイメージを正し、かつてのシーンが持っていた輝きを取り戻す」とのこと。

すなわちVapormeme/Memewaveこそ、#takebackvaporwaveにとっての憎き敵なのだ。

こういった単に下品な音源やイメージをBandcampやInstagramに上げ、そこに#vaporwaveタグを貼る。こうして、Vaporwaveのイメージはどんどん歪んでいく。George Clantonが問題視したのは、まさにこのような状況であった。

彼は明らかにVaporwaveというジャンルの純粋性を前提としており、それを汚すようなイメージを敵視している。

「サンプリング音楽は、アートの盗用=リッピングではなく、アートを成長させるものである」

Vaporwaveレーベル「Elemental 95」による声明には、この種の運動が持つ欲望が集約されている。すなわち、進歩史観的なアート史において、ジャンルを活性化し、成長させるような作品だけを"真正な"ものとしておきたいのだ。

しかしこの声明はズレており、元来「多くのVaporwaveが単なる盗用であった」という直観を踏まえると、大きなコストを払っているようにも思える。

 

#takebackvaporwave運動は複数のアーティストを巻き込み、コンピレーションアルバムもリリースされた。しかしこの作品自体が、安易なイメージの選択によるVapormeme的産物のようにも思えるのは、なんとも皮肉な話だ。彼らの敵は「③Vaporwaveと一切関係ない画像/音源で、#vaporwaveを名乗っているVapormeme」であったが、その結果生み出されたのは「①ありがちなイメージやエフェクトをテキトーに貼り合わせただけのVapormeme」であったのではないか。

 

レーベル「Business Casual」 主催のchris†††によるツイートは、より誠実なものだ。自身は#takebackvaporwaveを支持するが、自分でもミームをもとに作品を作っていると、彼は白状する。VaporwaveとVapormemeが表裏一体であることを、おそらく彼は見抜いている。

結局、#takebackvaporwaveは蒸発し、四散して消えた。僕はこの運動の(ひとまずの)挫折を、もっと深刻に捉えるべきだと考えている。これは、Vaporwaveというジャンル純粋性の夢が挫折した瞬間ではないか。

 

 

Fashwave(ファッショウェイヴ)

背景にはもう一つ、オルタナ右翼によるVaporwaveイメージの濫用、いわゆるFashwaveの問題がある。

オルタナ右翼について、詳しくはこちら。

 

トランプの選挙動画がVaporwave風(厳密にはSeapunk風)だと話題になったのは2016年だが、この頃は笑い話だったのが、段々と笑えなくなってきたのが2018年現在。

 

こちらは先日ツイッターのほうでも話題になった記事。

同様の話はたびたび取り上げられている。

「トランプ支持」「白人至上主義」「移民排斥主義」によって特徴づけられるオルタナ右翼は、その人種差別的なイデオロギーインターネット・ミームに乗せてネット空間に巻き散らかしている。偶然か必然か、その乗り物に選ばれたのがVaporwaveであった。

Adam HarperがDUMMYの記事で加速主義に言及していた点を思い出せば、話はすんなりとつながる。オルタナ右翼が、単なるミームとしてVaporwaveイメージを用いているのみならず、その加速主義的側面に関しても意識的であったとすれば、もういろいろと手遅れだ。恨むなら、最初にVaporwaveを政治と接続したAdam Harperを恨むしかない。

 

 

 

まとめ:今後のVaporwaveについて

こうして、Vaporwaveとは「呼べない」「呼ぶべきでない」「呼びたくない」ようなイメージが、Vapormemeとして蓄積されてきたのだ。言うなれば、Vaporwaveというシーンのダークサイドである。

過度な一般化は避けたいところだが、このような現象はVaporwaveに限らず、インターネットには広く見られる。さらに言えば、あらゆる芸術はこういった不純物との戦いを経てきたのではないか……と思うがこの辺で止めておこう。

 

さて、こういった不純物としてのVapormemeに対して、Vaporwaveはどうすれば良いのか。#takebackvaporwaveのような運動で、ジャンルの純粋性を叫ぶだけでは不十分なのは、すでに見てきた通りだ。アーティスト、レーベルオーナー、リスナー、その他Vaporwaveというアート・ワールドに参加するプレイヤーの全員にとって、この問題は他人事ではない。

 

僕は(少なくともVaporwave楽曲は作らない)単なるリスナーとして、なるべく傍観を心がけている。そして「傍観」とは、この場合極めて政治的なものだ。すなわち、「Vaporwaveが死ぬのであれば、死なせてやろう」という態度を、僕はとっている。おそらくVaporwaveはそう簡単には死なないだろうし、言い方によってはもう死んでいるのだ。

大衆化を拒絶することでVaporwaveの批判精神を保存し、ジャンルを延命させる。そんな主義主張が、僕にはできない。そんなやり方はスノッブ的なだけだ。Future Funkという、方法論もビジュアルも大きく異なるサブジャンル*8を内包している時点で、「Vaporwave」というカテゴリーには危うさが付きまとってきた。Future Funkの出現を止められなかったように、今後起こることも、何一つ止めることはできないだろう。

 

さて、Vaporwaveの根幹にはポスト・モダニズム的な裂け目があり、そこに蔓延った悪性細胞がVapormemeであった。Vaporwaveの"進化"や"発展"は、そのようなVapormemeを他者として除外することでしか記述できない。序盤の計算による「0.33%程度の重要度」という数値は、そういった拒絶、除外、無視の結果である。

そして、本稿を通して嫌というほど見てきたが、Vapormemeとは他者であるどころか、Vaporwaveと表裏一体なのだ。

Vapormemeは過去の作品や、遺物と化した悪趣味なイメージを、目的もなく切り貼りする。そして、これこそVaporwaveがやってきたことではないのか。純粋なゴミであろうとする「ジャンクの美学」は、Vapormemeだけでなく、Vaporwave全体にとっての基盤ではないか。

Vapormemeという他者を、積極的に退け、無視するのではなく、玉石混交のシーンをまるごと受け入れる、というのが本稿筆者の掲げる規範だ。繰り返しになるが、このジャンルにおいて、規範的でない記述を行うのは、ほとんど無理に近い。

要は、なにも心配しなくてよいのだ。「なにがVaporwaveなのか」という問いにうんざりしたならば、問うことをやめればいい。悪趣味なVapormemeが気に入らないなら、聴くのをやめればいい。

 

 NEO GAIA PHANTASY

2014年前後、Dream Catalogue以降のシーンを、僕は一貫してPost-Vaporwaveと呼んでいる。先日のNEO GAIA PHANTASYで来日した3組も、Post-Vaporwaveの人たちだ。

普段、Post以降のVaporwaveはあまり追いかけていないのだが、それを全身全霊で反省させられるほど、よいライブであった。

R23Xも、death's dynamic shroud.wmvも、Equipも、いい意味で全然Vaporwaveっぽくなかった。

エクスペリメンタルでドリーミーな空間を作り出したR23X

凶暴なサウンドコラージュから、生歌まで披露してくれたDDS

サンプラーによる人力ドラムで、フィジカルな側面を押し出したEquip

こういった人たちが愛情を込めて、自作に#vapowaveタグを貼るのって、すごく素敵だと思う。そして、Vapormemeのような他者を除外するばかりでは、こういった新しさも殺してしまう、と僕は考えている。

 

VaporwaveがどんどんVaporwaveっぽくなくなっていくのを楽しみに、僕はこれからも傍観し続けたい。

 

 

 

*1:ポスト・モダニズム、という曖昧なタームを、僕はなるべく曖昧なままで使いたい。ここでは広い意味で、クレメント・グリーンバーグマイケル・フリードらの「モダニズム=フォーマリズム」に対抗し、芸術作品の非自律性に注目するような批評を想定している。

*2:これこそ、僕が卒論「形而上蒸気の美学」で書こうとして書けなかった問題だ。

*3:「蒸気波仮想世界地図」からあえて除外したのは、いずれ改めてちゃんとした論文にしようと思っていたからだ。しかし、Vaporwaveに関する言説をカタギのメディアに送り込むのもナンセンスではないかと思い、やっぱブログに書いちゃおうと思った次第。

*4:ただし、サブジャンル・ガイドについては、Vaporwaveガイドのガイドから批判も寄せられている。曰く、「vapormemeやutopian virtualなど、ほとんど言及されることのないサブジャンルがあったり…(中略)…カテゴリー間でも容易にアルバムを入れ替えることができる」。だが、忠実な記述であろうとすることは、そもそも本稿の関心ではない。

*5:急いで付け加えると、「ジャンルを前進させる」「シーンのためになる」といった表現自体が、ある種のジャンル純粋性を前提としている。これは、そういった言説があるというだけで、筆者の見解ではないことを確認しておきたい。

*6:

こちらのスレにある会話、および、Discogsのエイリアスより。

*7:

*8:ただし、カテゴライズをはっきりさせるという意味で、サブジャンルを細分化させることには賛成だ。そうでないと、Vaporwaveについて語ることが難しくなっていく一方だからだ。これは単に便宜上の問題で、ジャンルの整合性を志向するものではない。

「画像表象とリアリズム」#1:Geert Gooskens "The Digital Challenge - Photographic Realism Revisited"(2011)

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「画像表象とリアリズム」Episode 1です。

指導教官とのゼミで描写(depiction)関連の論文を読むようになったので、そのまとめノートをブログに綴っておこうかと。

主に、デジタル時代の画像文化に関するものが中心です。

 

今日、紹介するのはGeert Gooskensによる"The Digital Challenge - Photographic Realism Revisited"(2011)という論文。(補足で別の論文についても触れます)

ACADEMIAのプロフィールによれば、Avans University of Applied Sciencesで教員をされているそうです。オランダ人?ですかね。専門は描写の哲学。

論文の内容は、ざっくり要約すると「デジタル写真のリアリズムを養護する」もの。

とりわけ、ウィリアム・J. ミッチェル『リコンフィギュアード・アイ』(1992)で提唱している、「デジタル写真はアナログ写真の持つリアリズムを欠いている」というテーゼに対する反論が中心。

 

後にコメントで指摘する通り、ところどころ穴の目立つ論文ですが、デジタル写真周辺の議論を俯瞰できるという意味でひとまずまとめてみました。

 

  • デジタルの挑戦 "The Digital Challenge"
  • 「デジタル写真のリアリズム」を養護する
  • "Can Digital Pictures Qualify as Photographs?"(2012)
  • コメント
  • イデアメモ

 

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