哲学者は認知科学の論文を読むか?|描写の哲学の場合

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描写の哲学はかなり学際的な分野だ。異なるバックグラウンドを持つ研究者たちが、画像という同一の主題を、さまざまなアプローチで扱っている。

2021年6月26日㈯に、松永さん(@zmzizm)主催の「描写の哲学研究会」があり、今年度は「描写の哲学と認知科学がテーマになっている。もう事前申し込みは締め切っているので宣伝としてはいまさらなのだが、会に先立ちこの話題に関して自分が気になっている点を整理しておきたい。

まずはHPに挙げられている「想定される論点」を引用しよう。

  • 描写の哲学の議論は、心理学や神経科学といった認知科学からどう見えているのか。
  • 哲学者は経験的な研究ぬきに特定の前提を置きがちだが、それは適切なのか。
  • 認知科学者と哲学者の関心の違いは(もしあるとすれば)どこにあるのか
  • 描写の哲学で共有されている諸概念は、認知科学にとって何らかの意義を持つのか。
(2021年度 描写の哲学研究会 - 描写の哲学研究会)

描写の哲学のこれまでとこれからを知っていないと、こういった論点が想定されるのもピンとこないかもしれない。順を追って説明しよう。

 

  • 1.描写の哲学のこれまでとこれから
  • 2.進撃の認知科学
  • 3.哲学者の役割:問題提起モデル?
    • 参考文献
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レジュメ|Enrico Terrone「正しさの基準と描写の存在論」

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Terrone, Enrico (2021). The Standard of Correctness and the Ontology of Depiction. American Philosophical Quarterly, 58(4):399-412.[PDF]

 

描写の哲学、とりわけ「正しさの基準」に関する最新の論文。*1

「正しさの基準[standard of correctness]」(以下、SOC)とは、Wollheim (1980)が定式化した問題。ざっくり言えば、画像には色んなものが見て取れるが、「画像がほんとうに描いているもの」についてはなんらかの外的情報(たいてい、画像の歴史的事実のどれか)を踏まえて特定・固定する必要があるという話。画像に目を向けるだけでは、犬なのか猫なのか、双子の兄Aなのか弟Bなのか、今日の出来事なのか昨日の出来事なのか、よくわからない。

正しさの基準といえば、描写内容の特定に関する認識論的な話として扱われることが多いが、本論文はこれを画像の存在論的一要素として組み込もうとするもの*2ゴッホ《古靴》に関するハイデガー、シャピロ、デリダの有名なバトルなんかも取り上げている。

 

  • 1.個別者と種/2.観点と特徴
  • 3.不確定性、解釈、不一致 
  • 4.描写のゲーム/5.ピクチャーとイメージ
  • 6.描写の多様性/7.画像の密かな暮らし
  • ✂ コメント

*1:筆者のエンリコ・テローネ[Enrico Terrone]は去年からイタリアのジェノヴァ大学でAssociate Professorをしている研究者。美学、映画の哲学、社会存在論などが専門。去年だけでもJAACにSFの定義ドキュメンタリーの定義、BJAにポップソングの現象学の論文を載せており、最近の分析美学では要注目人物のひとり。『The Pleasure of Pictures』に載せている「映画は二回見よう」論文によれば、昔は映画批評もやっていたとか。関係ないが、本記事で取り上げている論文、「acceptance date: 20 January 2020」なのにいまだにAPQに掲載されてなくて、英語圏も難儀だなぁとしみじみ。

*2:「認識論的な話」の例として、Abell (2005)。

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レジュメ|ベリズ・ガウト 「芸術を解釈する:パッチワーク理論」(1993)

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Gaut, Berys (1993). Interpreting the Arts: The Patchwork Theory. Journal of Aesthetics and Art Criticism, 51(4):597-609.

 

ベリズ・ガウト[Berys Gaut]による、芸術作品の解釈と評価に関する論文。意図主義まわりの議論で頻繁に引かれるわけではないが、割といいことが書いてある。

大筋としては、作品解釈に関する意図主義[intentionalism]の問題を指摘した上で、「パッチワーク理論[the patchwork theory]」と呼ぶ立場を提唱するもの。

 

  •  1.ふたつのパラダイム
  • 2.いくつかの意図主義
  • 3.パッチワーク理論
  • ✂ コメント
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