英語論文の投稿先ジャーナルを選ぶ(美学・芸術哲学の場合)

サッカー選手たるもの、なるべく多くゴールを決め試合に勝たなければならないように、哲学者たるもの、なるべく評価されているジャーナルになるべく多く論文を載せなければならない。現代英語圏の哲学はすっかり制度化されており、講義のレポートから学会報告まで、たいていの活動は究極的には投稿論文へと繋がるように設計されている。学部生だろうが名誉教授だろうが、すごいジャーナルにすごい論文を載せているやつがえらいのだ。批判はあるだろうが、これはそういうゲームなのである。

では、どれが「すごいジャーナル」であり、どれを目指すべきなのか。これが分からなければ、英語論文を書いて投稿するイメージすら湧かないだろう。留学するにあたりこの辺を集中的に調べていた時期があるので、以下いくつか紹介する。もちろん、専門ごとに見え方はだいぶ違うので、以下はあくまでも現代の美学・芸術哲学を専門としている私から見たスタンダードである。

美学・芸術哲学のジャーナル

まず、哲学の一般ジャーナルと、分野別の専門ジャーナルを区別しよう。次節で取り上げるいわゆるトップジャーナルは、トピックに制約なく哲学論文を受けつけている(後述するようにジャーナルごとの傾向はある)のに対し、特定のトピックを絞ったジャーナルも出版されている。ふだん目にする機会が多いのは後者かもしれない。私が専門としている美学・芸術哲学だと、

が二大巨頭となっている。「分析美学をやっている」というのは、基本的に、JAACとBJAに載った論文を読み、引用していることと同義である。傾向としては、JAACのほうが門戸が広く、BJAのほうが格式高い。JAACはポピュラーカルチャーを扱ったちゃらい論文も載せるが、BJAはフィクション論ばかり出版しているイメージだ(もちろん誇張している)。新たな問題を切り開くような実験的な論文はJAAC、何十年も論じられているような古典的問題に立ち向かう論文はBJA向きだ。もちろん、どの査読者に当たるか次第なので、この限りではない。こちらで受け入れてくれているDominic LopesはいつもBJAの方が良いジャーナルだと言っていて、私の体感としてもBJAのほうが査読コメントの質が高い。

ほかに、美学の専門ジャーナルだと、

などが候補となる。『Estetika』はJAACやBJAに劣らず権威ある雑誌で、有名な論文もたくさんある。『Contemporary Aesthetics』は日常美学のYuriko Saitoが編集長をされており、その手の論文が多く掲載されているが、私はなぜかフィクション論で一本通った。私と同じ号には青田麻未さんの論文も掲載されている。とても丁寧に対応していただいたのでおすすめです。

ついでに、美学(のなかの多くのトピック)は価値論とも言えるので、価値論のジャーナルである『Journal of Value Inquiry』にも出せる。John DyckとMatt Johnsonのグッドバッドアートの論文とかが載っており、わりと門戸が広い印象。採択率も高い。

特定の芸術メディアに関する論文なら、それに特化したジャーナルを探すのも手だ。例えば映画だったら『Film and Philosophy』があり、ボードにはNoël CarrollやCynthia Freelandがいる。ただ、この探し方だとちょっとノリが違うジャーナル(芸術学寄りとか)にあたる可能性もあるので、注意が必要だ。

院生やキャリア初期の研究者には、

もおすすめだ。イギリス美学会が発行しているサブジャーナルで、もともとは『The Postgraduate Journal of Aesthetics』という名前の院生ジャーナルだった。私がはじめて英語論文を載せたジャーナルだが、語数上限が3,500ワードと少ないため、最初の力試しとして最適だ。その年のEssay Prizeとして賞金を出しているのもあって、コスパの面でかなりよいと思う。

哲学の一般ジャーナル

これは意外かもしれないが、ふつうは、トピック別のジャーナルより一般ジャーナルに載ったほうがえらいとされる。JAACやBJAは十分立派なジャーナルだが、野心的な論文はまず一般ジャーナルの掲載を目指す、というのが定番らしい(Lopes談)。

一般ジャーナルについては、ブライアン・ライターの哲学ブログ「Leiter Reports」が数年に一度発表していたランキングが有名だろう*1。さらには、ランキング自体をメタ評価する論文が2023年の『Synthese』に載っている*2。後者のトップ20はこうだ。

  1. 『Noûs』
  2. 『Philosophical Studies』
  3. 『Philosophy and Phenomenological Research』
  4. 『Synthese』
  5. 『Mind』
  6. 『Australasian Journal of Philosophy』
  7. 『Philosophical Review』
  8. 『Journal of Philosophy』
  9. 『Pacific Philosophical Quarterly』
  10. 『Erkenntnis』
  11. 『Philosophical Quarterly』
  12. 『European Journal of Philosophy』
  13. 『Canadian Journal of Philosophy』
  14. 『Philosophical Issues』
  15. 『Inquiry: An Interdisciplinary Journal of Philosophy』
  16. 『Journal of the American Philosophical Association』
  17. 『Philosopher's Imprint』
  18. 『Analysis』
  19. 『American Philosophical Quarterly』
  20. 『Ratio』

ほかにも、「Leiter Reports」のランキングで常連となっているのは以下。

  • 『Philosophical Topics』
  • 『Philosophical Perspectives』
  • 『Ergo: An Open Access Journal of Philosophy』
  • 『Proceedings of the Aristotelian Society』

この辺はどれも超えらいジャーナルで、総じて採択率も低いので、ランキングの上下は大して問題にはならない。最終的には、ここを目指すことになるだろう。

さて、どれもえらいからと言って、やみくもにランキング上位に投稿すればいいわけではない。自分の論文に向いているジャーナルを厳選する必要がある。では、どうすればいいのか。

私の場合、ジャーナル選びの考慮事項はおおきく4つだ。順不同で、

  • そのトピックの論文を掲載したことのあるジャーナル
  • 編集ボードやアドバイザーに専門の近い哲学者がいるジャーナル
  • レスポンスの早いジャーナル
  • 採択率の高いジャーナル

かどうかを考慮している。

昨年Inquiryに一本アクセプトされたので、その論文を例に取ろう。「ルールとしてのジャンル[Genres as Rules]」という論文で、芸術の「ジャンル」をどう定義するか、ジャンルはどういう機能をどういう仕組みで持っているのか、という問題を扱っている。いろいろ参照しているが、そのひとつとしてEmmie/Evan Maloneの博士論文と、「The Ontology and Aesthetics of Genre」という『Philosophy Compass』に掲載されたサーベイ論文を引いている。Maloneはここ近年、ジャンル概念について精力的に書いている人物であり、話題的に引用はしていないが、『Inquiry』に「The Problem of Genre Explosion」という論文と、P. D. Magnusとの共著で「Popular Music and Art-interpretive Injustice」という論文を掲載している。Maloneにリーチするようなジャーナルを選ぶ、というのが基本的な方針となり、最終的には『Inquiry』を投稿先に決めた。『Inquiry』は、編集ボードに嶺南大学のAndrea Sauchelliがおり、美学の論文もぽつぽつ載せている一般ジャーナルだ。

採択率やレスポンスの早さは、アメリカ哲学会のサイトで投稿者のアンケートを見ることができる。完全に信用することはできないが、参考程度にはなるだろう。これによると、『Inquiry』は平均採択率が30%いかないぐらいで、最初の結果を受け取るまでの平均所要時間は3.3ヶ月となる。『Inquiry』に回すのに先立ってすでに二敗していた原稿なので、他と比べると採択率高めなのはうれしい。実際には、

  • 2024年6月28日:投稿
  • 2024年9月2日:Major Revisionの要求
  • 2024年9月19日:再提出
  • 2024年10月11日:Minor Revisionの要求
  • 2024年10月15日:再提出
  • 2024年11月9日:アクセプト
  • 2024年11月19日:オンライン公開

ときびきび動けたので、かなり満足している。

レスポンスに関して言えば、おすすめなのは、

  • Philosophical QuarterlyボードにBerys Gaut。
  • ErgoボードにDominic McIver Lopes, Keren Gorodeisky、Shen-yi Liao、Aaron Meskin。オープンアクセス。

どちらも、リジェクトの場合のコメントを簡略化させる代わりに、1〜2ヶ月以内に結果を伝えるという方針をとっている。さすがに採択率は低いので、再投稿先を考えつつまずは運試しのつもりで出してみるのがいいかもしれない。PQは好きな論文がけっこうあるので、個人的にいつか載せたいジャーナルのひとつだ(今年の春先に一敗)。『Ergo』は投稿サイトも超絶シンプルで、タイトルと分野を入力し、PDFを添付して「Submit」を押せばおしまいだ。タイトルページもレターももろもろの宣言もいらない。ぜんぶこうあってほしい。

逆に、『Philosophical Studies』『Pacific Philosophical Quarterly』は美学の論文もよく載るが、レスポンス遅めなのがネックになっている。私は飽き性なので、査読結果が帰って来るころにはぜんぜん違うトピックに取り組んでいることが多い。半年も前に書いたものを書き直すのは気分が上がらないため、レスポンスの速さはけっこう重要だ。『Synthese』は知名度の割に採択率高めだが、あまり美学の論文をとっていないのと、こちらもレスポンスは遅め。ボードにも(私が知っている範囲で)専門の近い哲学者がいないので、投稿の優先順位は高くない。

ほかに美学の論文がよく載っているand/or美学の研究者が編集ボードに多いジャーナルとしては、

AJPは一敗したことがあるが、オーストラリアの夏休みにあたる時期(12〜2月)は稼働していないのと、その直後に出したのもあって査読結果が出るまでずいぶん時間がかかった(ということで、APAサーベイの平均はそこまで信用できない)。PPRは論文の質も高く、個人的にもかなり憧れているジャーナル。渾身の一本が書けたら出そうと思っている。

ちょっと特殊なのが、

で、短い論文(〜4000 words)に特化したトップジャーナルとして有名だ。かのゲティア問題を提起したわずか3ページの論文も『Analysis』に載ったものだ。短い論文大好きなので、いつか載せたいジャーナルだ。美学の論文もけっこう掲載されている。

知名度は高いが、自分なら選ばないなぁというジャーナルは以下。

  • 『Philosophical Review』シブリーの「Aesthetic Concepts」で有名だが、採択率低すぎる。近年は美学の論文もめったに掲載されない。
  • 『Journal of Philosophy』ダントーの「Artworld」で有名だが、近年はレスポンスが遅すぎて嫌われている。
  • 『Mind』採択率低い&美学の論文そんなにない。
  • 『Noûs』上に同じ。

有名でかっこいいからといってこういったジャーナルに出してしまうと、さんざん待たされたあとでふつうにリジェクトという憂き目にあってしまうので、投稿先はよくよく考えましょう。*3

 

ざっとこんなところだろうか。

補足として、ロールモデルとなる研究者のCVを見て、これまでどのジャーナルにどれだけ載せてきたのかをチェックすると、自分が今後どう動けばいいのかイメージしやすい。大御所よりも、自分より数歩先を歩いている若手研究者(私の場合はLecturerやAssistant Professor)がおすすめだ。例えば、私が大ファンであるRobbie Kubalaは、

  • Cognition and Feeling in Aesthetic Judgment, British Journal of Aesthetics, forthcoming
  • Aesthetic Reactive Attitudes and Artistic Responsibility, Philosophers’ Imprint, forthcoming
  • On the Value of Irreplaceable Objects, with Harvey Lederman & Adam Lovett, The Journal of Philosophy, forthcoming
  • Art, Understanding, and Mystery, Ergo, Vol. 12, No. 35 (2025): 937-54
  • Non-Monotonic Theories of Aesthetic Value, Australasian Journal of Philosophy, Vol. 103, No. 2 (2025): 449-68
  • Varieties of Aesthetic Response, Philosophical Topics, Vol. 52, No. 1 (2024): 43-59
  • Aesthetic Blame, Journal of the American Philosophical Association, Vol. 10, Issue 4 (2024): 744-60
  • The Aesthetics of Crossword Puzzles, British Journal of Aesthetics, Vol. 63, Issue 3 (2023): 381-94
  • Aesthetic Practices and Normativity, Philosophy and Phenomenological Research, Vol. 103, Issue 2 (2021): 408-25
  • Aesthetic Obligations, Philosophy Compass, Vol. 15, Issue 12 (2020): 1-13
  • Literary Intentionalism: A Shared Interpretive Policy, Metaphilosophy, Vol. 50, Issue 4 (2019): 503-15
  • Grounding Aesthetic Obligations, British Journal of Aesthetics, Vol. 58, Issue 3 (2018): 271-85
  • Valuing and Believing Valuable, Analysis, Vol. 77, Issue 1 (2017): 59-65
  • Love and Transience in Proust, Philosophy, Vol. 91, Issue 4 (2016): 541-57

という感じで論文を発表している。私もこうなりたいので、彼が選んだジャーナルは優先的に選ぶ、といった具合だ。

 

そもそもどうやって英語論文を書くんじゃいという問いに対しては、暫定的には、日本語で書いたものを無料版のDeepL TranslateとWriteに投げ、タイトルページなどを添えて投稿するだけの流れ作業でやっていると答える。有料の英語校正サービスを利用したことはないし、英語表現の問題を指摘されたこともほとんどない。一昔前に比べて、国際ジャーナルに挑戦するハードルは格段に下がっているはずだ。

とはいえ、まだ自信を持って回答できるだけの業績も固まったノウハウもないので、他の人がなにか書いてくれることに期待だ。

*1:読者投票を集計したものだが、みんな自分の論文が掲載されているジャーナルを過大評価しがちなので、単に掲載数が多いジャーナルが上位になりやすいなどの問題点があった。気づいたらいつのまにか消されていた。

*2:これの載っている『Synthese』が、当論文の調査により、Leiterのランキングよりぐっと順位を挙げているのが笑いどころだ。

*3:Bence Nanay、Nick Riggle、C. Thi Nguyenのような超人は例外。本当になにをどうやったらあれだけ査読を突破できるのか、お金出すのでレクチャーしてほしい。