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インターネットと美学研究

「イメージを切り貼りするとなにがどうなるのか」|投稿論文あとがき|参照ミーム一覧

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論文が発表されました。最新号の『フィルカル』5(2)に載っています。

「イメージを切り貼りするとなにがどうなるのか:インターネットのミーム文化における画像使用を中心に」と題して、画像表象・描写の哲学を論じた論文です。年始に開催された「描写の哲学研究会」での発表がベースになっています。*1

以下、簡単な論文紹介と、論文中に添付できなかったミーム作品の一覧を載せました*2。実際に作品を見てみないことにはいまいち味気ないと思いますので、合わせてお楽しみください。

 

簡単な論文要旨

テーマは大きく分けてふたつ。(1)実践において「使用される」ことで画像が担う意味内容に焦点を当てる(2)その代表的実践としてインターネット・ミームにおける画像使用を分析する、です。

(1)については巻頭言で松永さんが言及されている通り、「画像の語用論」と呼びうる試みです。今日では広く画像まわりのさまざまなトピックを包括して「描写の哲学」と呼ぶのが主流(本特集も、このような広義の「描写の哲学」特集になっている)ですが、狭義の描写の哲学は「画像がなんらかの対象を描くとはどういうことか」という意味論的な問いに関するものだと言っていいでしょう。これは、確定記述や固有名の意味論的値をめぐる言語哲学と、かなりパラレルな関心です。

松永さんの巻頭言にもあるように、「画像の語用論」はDavid Novitzが『画像とコミュニケーションにおける使用』(1977)というモノグラフを残しているほかはあまり注目されてこなかったテーマです。拙論はあらかじめこのようなテーマを意識して書きはじめたというより、ミームという一種の二次創作文化を扱うなかで自然にこのテーマに行き着いた感じです。

ところで同号収録の難波さん論文「キャラクタの画像のわるさはなぜ語りがたいか」もまた、語用論的な関心を持った描写の哲学です。実際のところ、両論文の行き先はかなり異なっており、難波論文がオースティン的な言語行為論を参照し「行為」としての水準に焦点をあてていく一方、拙論はグライスによる「会話の含み」を検討するなどあくまで広義の「内容」の水準に根ざしています。

 

(2)具体的な分析対象としては、インターネット・ミーム(以下たんにミーム)を扱っています。本文でも解説していますが、ミームとはざっくりSNSや動画投稿サイトやネット掲示板において共有・改変・再共有されるようなネタコンテンツを指しています。古くはおもしろフラッシュ倉庫から、最近のTik TokやTwitterでバズっているネタまで、その外延は広くとってあります。

ミームを主要な分析対象としたのは、「画像の二次的使用」が顕著に見られるポピュラー文化だからです。『アフロ田中』の火事コラSOMEBODY TOUCH MY SPAGHETTI毒を盛られたセイキンノリノリで棺桶を担ぐガーナ人たち、これらはいずれも本来別の文脈におかれていた既存の画像や映像を、不特定多数のネットユーザーが(多くの場合勝手に)引用・改変・共有することでバズった事例です。

拙論ではこれらの切り貼りを三通りの組み合わせ、すなわち「画像+キャプション」「画像+使用の状況」「画像+別の画像」に分類し、そこに生じる美学的問題を扱っています。具体的には以下のような問いを取り上げています。

  • 「画像と組み合わされるキャプションにはどのようなものがどのような仕方で選ばれるのか」>>>一定の仕方で統制されていることを指摘。
  • 「二次的使用上の内容はどのような仕方で解釈・特定されるのか」>>>グライス的な「会話の含み」がヒントになるが、十全には説明しきれないと主張。
  • ミーム鑑賞において、二次的使用上の内容とそれに先立つ内容の二層性はいかなる役割を果たすのか」>>>ミームにおける画像使用を虚偽目的の使用から区別し、ある種のユーモアに繋がる構造をもたらしていると指摘。

白状すると、拙論では各問いに対し一定の解答方針を示している以上には、かっちりとした答えを与えていません。個別の問いに対して本腰を入れようとすると、ミーム実践を広く紹介するというもうひとつの目的が損なわれてしまいそうだったためです。

深堀りできなかった論点は今後ゆっくり開いていこうと考えていますので、今回は「ミームの哲学ことはじめ」ぐらいの読み物として扱っていただくのがよいかと思います。なので、改めて正確なタイトルをつけるとしたら、ミームが描写の哲学にとって問題となるならばどのような問題があるのか」というのも悪くないかなと思ったり。

いずれにしても、ミーム実践に顕著な「画像の語用論」はとても重要かつ面白い分野なので、現代の描写の哲学はもう少し注意を払っていくべきだ、というのがさしあたりの結論となります。

 

参照ミーム一覧  

2.1.画像+キャプション

■哲学ラプトル(Philosoraptor)|2008

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■期待が高いアジア人の父親(High Expectations Asian Father)|2010

https://i.kym-cdn.com/photos/images/small/000/256/571/115.jpg

 

■驚くピカチュウ(Surprised Pikachu)|2018

https://i.kym-cdn.com/photos/images/newsfeed/001/424/505/eb4.png

 

■僕とみんな(Me and the Boys)|2019

https://i.kym-cdn.com/photos/images/newsfeed/001/496/865/38e.jpg

 

■猫に怒鳴る女性(Woman Yelling at a Cat)|2019

https://i.kym-cdn.com/photos/images/masonry/001/505/753/c2d.jpg

 

2.2.画像+使用の状況

■カエルのぺぺ(Pepe the Frog)|2008

https://i.kym-cdn.com/photos/images/newsfeed/000/095/218/feels-good-man.jpg

 

■ドラマチックなリス(Dramatic Chipmunk)|2007

 

■ドージ(Doge)|2013

https://i.kym-cdn.com/photos/images/newsfeed/000/581/722/7bc.jpg

 

2.3.画像+別の画像

■バートはワルだ!(Bert Is Evil!)|1998

https://i.kym-cdn.com/photos/images/original/000/001/507/bert4.gif

 

■悲しげなキアヌ(Sad Keanu)|2010

https://i.kym-cdn.com/photos/images/newsfeed/000/053/379/Untitled-2.jpg

 

■やるんだ!(Just Do It)|2015

 

■絶叫するマーモット(Screaming Marmot)|2015

 

■サスケ首絞めコラ(Sasuke Choke Edits)|2019

 

■踊るトム・ヨーク(Thom Yorke Dance Remixes)|2011

■ジャスティン・ビーバーが撃たれた!(Justin Bieber Gets Shot! (& Killed))|2011

 

出典

*1:発表資料はresearchmapからどうぞ。

*2:著作権的にグレーな作品たちをこの場で引用することもグレーなわけですが、インターネットは多かれ少なかれそういったグレーを許容していくしかないというのが私見です。もちろん、然るべき権利者から然るべき仕方で怒られた場合は、然るべき対応をいたします。