画像と言語のアナロジーはどこまで/どれだけ有効なのか

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描写=画像表象の振る舞いを、言語(語や文)のそれに見立てる見解および、これに対する異論のサーベイです。具体的には、『芸術の言語』(初版1968, 改訂版1976)におけるNelson Goodmanの枠組みをめぐって、70年代に展開された論争の一部をまとめています。トピックとしては、以下でも参照する松永ドラフトへのフォローアップです。

1974年には『The Monist』誌、1978年には『Erkenntnis』誌で、相次いでLanguages of Art特集が組まれている。そちらでもうかがえるように本書のインパクトは凄まじく、名だたる論者たちが総出でこの本と格闘していたことが伝わってくる。

とりわけ、第一章が絵画の表象に関する分析から始まることによって、『芸術の言語』は今日の「描写の哲学」にとってのメルクマールとなった。John Kulvickiのような直接のフォロワーでなくとも、『芸術の言語』は画像を哲学的に考えるうえで避けては通れない文献となっている。

70年代の議論の特徴として、言語哲学の枠組みと照らし合わせた理論が目立つ。今日では、認知科学心の哲学との対話が出てきた一方で、このような言語的アプローチはやや影を潜めているようにも思われる。ちなみにまだゲットできていない(ボスにねだっている)が、Kulvickiの新著は言語哲学的なアプローチから書かれた一冊らしく、かなり楽しみにしている。

ところで私の博論も、「言語哲学ベースの描写の哲学」として構想しているところだ。なので、本稿は博論の研究計画・先行研究の調査・断片的な検討・現段階で主張したいことの整理、といった性格を持っている。

描写の哲学入門は以下からどうぞ。本稿から入門するのはたぶん無理です。

 

  • 1.描写は指示である
    • 1.1.1外延指示について
    • 1.1.2.述語に関する外延主義
    • 1.2.1.「picture of x」と「x-picture」
    • 1.2.2.「x-画像」は性質の述定か?
  • 2.描写は指示ではない
  • 3.描写は述定である 
    • 3.1.画像だけでは真偽が問えない
    • 3.2.述語とのアナロジーの是非
  • 4.描写は述定ですらない
    • 4.1.画像は述語の特徴を満たさない
    • 4.2.描写は不特定のある事物の表示である
  • 5.描写はやっぱり指示である
    • 5.1.Goodmanによる応答
    • 5.2.Goodman-Beardsley論争へのコメント
  • まとめ
    • 今後の課題
    • 参照文献
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文学解釈における価値最大化理論|スティーヴン・デイヴィス「作者の意図、文学の解釈、文学の価値」(2006)

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Davies, Stephen (2006). Authors' Intentions, Literary Interpretation, and Literary Value. British Journal of Aesthetics 46 (3):223-247. [PDF]

 

ティーヴン・デイヴィスによるBJAの論文「作者の意図、文学の解釈、文学の価値」のまとめです。*1

「作者の意図と文学解釈」というホット・トピックにおいて、「価値最大化説」を定式化した重要論文です。同様の立場はそれ以前のDavies (1982)でも提唱されているが、その後出てきた諸ライバル理論を踏まえて書かれたのが本論文。この手の話題で参照されないことはない程度には定番の一本です。

〜〜ここまでのあらすじ〜〜

ウィムザット&ビアズリー(1946)「作者の意図はいりませーん!」【反意図主義】

バルト「作者は死んだ」「テクストと戯れるのだ……」デリダ「そうだそうだ!」【ポストモダン

ハーシュ(1967)「いや、意図も大事でしょ……」【意図主義リバイバル

⚔90年代〜00年代の論争へ🏹

キャロル、イスミンジャー、ステッカー、リビングストンほか「ほどほどに作者の意図使っていきましょうや」【穏健な現実意図主義】

レヴィンソン、トルハースト、ネハマス、カリーほか「〈理想的鑑賞者によって仮説される意図〉ってのがいいぞ」【仮説意図主義】

デイヴィス「🙋‍♂<価値最大化!」

関連する邦語文献だと、レヴィンソンの仮説意図主義については『分析美学基本論文集』に論文が収録されており、穏健な現実意図主義については『批評について』のキャロルと『分析美学入門』のステッカーが擁護している。いちおう『分析美学入門』でもデイヴィスの立場は引かれているのだが、詳細に検討されているわけではないので原典をあたってみました。

「芸術作品の解釈において作者の意図は関与的なのか、関与的だとすればどのように/どの程度関わるのか」という話題にご関心の向きであれば、面白くためになる議論のはずです。ライバル理論についても頁割いて検討しているので、トピック全体のサーベイとしても◎です。*2

*補足の一部と感想コメントは注に回しています。ところどころ本文中にも補足を付けている&主張を噛み砕いているので、デイヴィスの正確な記述が気になる方はお気をつけください。/*中見出しも、僕のほうで適時付けています。/*その読みはおかしい、というご指摘は随時募集。

  •  0.イントロダクション
    • 0.1.文学解釈に関するみっつの理論
    • 0.2.本論文の射程
    • 0.3.本論文の目的と主な主張
  • 1. 現実意図主義
    • 1.1.極端な意図主義と穏健な意図主義
    • 1.2.意図の実現に関するふたつの基準
    • 1.3.どこまで「証拠」として使ってよいのか
    • 1.4.現実意図主義では広すぎる
    • 1.5.現実意図主義では狭すぎる
    • 1.6.弱い現実意図主義
    • 1.7.カテゴリー的意図
    • 1.8.反意図主義と現実意図主義の対立点
    • 1.9.現実意図主義への評価まとめ
  • 2.仮説意図主義
    • 2.1.現実の作者から引き剥がす
    • 2.2.現実意図主義に対する仮説意図主義の利点
  • 3.仮説意図主義と価値最大化理論
    • 3.1.仮説意図主義も価値最大化をしている
    • 3.2.仮説意図主義はどこまでちゃんとした意図主義なのか
  • 4.価値最大化理論(および仮説意図主義)への反論
    • 4.1.価値最大化理論では広すぎる?
    • 4.2.価値最大化理論では狭すぎる?
    • 4.3.価値最大化理論における解釈の多様性
  • 5.まとめ
  • 文献一覧

*1:【参考】Stephen Davies:1950年5月28日生。ニュージーランドオークランド大学名誉教授。前アメリ美学会会長。JAAC、Philosophy Compass、SEPの編集に携わるなど、分析美学の中心人物のひとり。音楽美学、芸術の定義関連で本を出しまくっているほか、近年は美学的問題に関する進化論的アプローチを試みていることでも有名。

*2:【参考】すでにあるサーベイとしては、松永さんのブログ記事と、

河合さんの論文、

その他、日本語で読める文献については、森さんのリーディングリストをご参照ください。

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村山正碩「視覚的修辞:エル・グレコからアボガド6まで」|『フィルカル』vol.5 no.2「特集描写の哲学」レビュー

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 『フィルカル』vol.5 no.2「特集:描写の哲学」収録の論文、村山正碩「視覚的修辞:エル・グレコからアボガド6まで」のレジュメとコメント(青字)です。

  • 1.描写における分離
  • 2.様式的変形と規範的鑑賞
  • 3.視覚的修辞
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