本記事は、「スタンフォード哲学百科事典 Stanford Encyclopedia of Philosophy」収録「ビアズリーの美学[Beardsley's Aesthetics]」の意訳&抄訳である。
モンロー・ビアズリー(1915-1985)は20世紀英語圏を代表する美学者のひとりであり、分析美学においてはフランク・シブリー[Frank Sibley]と並ぶ巨人とみなされている。2005年のJAAC 63(2)号では「美学におけるビアズリーの遺産」としてシンポジウム特集が組まれているが、名だたる寄稿者たちが次のように紹介している。
もしビアズリーの『美学』が出版されていなければ、美学がなんであるのか私が理解することは決してなかっただろうと思う。出版に先立ち、私はすでに二年間も美学教員をしていたにもかかわらず、である。/ビアズリーの本の出版は、20世紀の分析美学において、最重要な出来事のひとつであった。(ジョージ・ディッキー[George Dickie])
「ビアズリーの『美学』は、現代の分析芸術哲学にとって、根本的な貢献を果たした。(スティーヴン・デイヴィス[Stephen Davies])
ビアズリーは、その後の20世紀において花開く分析芸術哲学の草分けとなった栄誉に浴している(ニコラス・ウォルターシュトルフ[Nicholas Wolterstorff])
ビアズリーの主著である『美学』は、いまでも英語圏の美学教科書として使われるような大著である。分析美学という分野の紹介としては最優先の一冊だが、残念ながら和訳はまだない(いかんせん、原著600ページ超という大作だ)。*1
また、本文中でも言及されるが、ビアズリーの名がもっともよく知られているのは、文学批評におけるニュー・クリティシズムを牽引した論文「意図の誤謬」である*2。『美学』には「意図の誤謬」を発展させた議論も含まれており、文学研究・批評理論研究にとっても重要な文献だ。*3
ということでぜひ訳されてほしいので、本記事にはささやかなプロモーションとしての意図もある。ご検討いただけると幸いです。
- 0.概要
- 1.背景
- 2.美学の本性
- 3.芸術の存在論
- 4.芸術の定義
- 5.芸術家の意図
- 6.内的なものと外的なもの
- 参考文献
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