「#magicrealism」のレシピ:「分裂」と「統合」の力学

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マジックリアリズム(Magic realism)」あるいは「魔術的リアリズム」と呼ばれる創作手法がある。

マジックリアリズムとは、ラテンアメリカ文学を中心に、芸術批評で用いられる概念である*1。ごく大雑把に言えば、その名称が示すとおり、「魔術的/幻想的」な要素と「現実的/写実的」な要素をともに含む作品を指すことが多い。

本記事では、この概念を整理、改良した上で、試験的に運用する。やや大げさな売り文句としては、「マジックリアリズムの概念工学」とでも言ったところか。

 

本記事は2018年に慶應大学文学部に提出した卒業論文「マジック・リアリズムの中国化―閻連科『炸裂志』を中心に」を下地にしている。

当論文では、現代中国の作家であり、マジックリアリズムの影響を受けたとされる閻連科(えんれんか)の作品分析を中心に、マジックリアリズムの手法一般を整理している。と言えば聞こえはいいが、本当は古今東西の世界文学について、思い思いの視点から書きなぐったエッセイ風のナニカシラというのが実態だ。本記事は、このリベンジを兼ねている。

 

  • 0.イントロダクション
    • 動機、目的
    • 手段、方法
    • 主張、結論
  • 1.マジックリアリズム小史
    • 黎明期:1930年代〜40年代
    • 萌芽期:1950年代〜60年代前半
    • 黄金期:1960年代後半〜1970年代
    • ブーム以後:1980年代後半〜
  • 2.「#magicrealism」のレシピ
    • MRの雛形:真偽と不確定性
    • リアリズム文学、不条理文学、マジックリアリズム
    • [ケース1]出来事レベル:「誇張」と「同化」
    • [ケース2]語りレベル:「脱線」と「直進」
    • [ケース3]語りレベル:時間軸の解体、フラッシュフォワード、その他
  • 3.「#magicrealism」を運用してみる
    • 映画の「#magicrealism」
    • 「分裂」する映画たち
    • 「統合」するスローシネマ:長回し、ロングショット
    • ひとまずのまとめと、アニメーション映画についての覚書
  • 4.総括:「マジックリアリズム」から「#magicrealism」へ

 注:この記事は多くのネタバレを含みます。

*1:もともとは1920年代に美術批評の文脈で使われ始めた用語。出自それ自体は、本記事の議論とほぼ関係しない。

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Jiri Benovsky "Photographic Representation and Depiction of Temporal Extension"(2012)

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「画像表象とリアリズム」第4回。

前回、番外編で扱ったものに続き、ジー・ベノヴスキー(Jiri Benovsky)の論文です。

本論文(Benovsky 2012)はPhilPaperの「Photography」カテゴリで、ウォルトン「透明な画像」(1984)に次ぐダウンロード数を記録している。なぜかは不明……。

静止したイメージである写真に、運動、時間、変化を表象することはできるのか。時空論をも巻き込んで、「写真による時間の表象」を説明しようとする、野心的な一本です。

話をゴリゴリに単純化していくところや、やや突飛すぎる論述はそれ自体として批判されるべきだが、近年の分析系写真論においては、それなりに面白いプレイヤーだと思っている。

ちなみに、掲載されている写真は全てベノヴスキーによるものだそうです。

 

いくぜ!

(*節の名前は僕が随時つけたものです)

  • 1.描写⇔表象
    • 1.1写真は時間を表象することができるのか
    • 1.2.「表象する⇔描写する」
  • 2.映画における物語り
  • 3.写真における物語り
    • 3.1.写真家による「注意管理」
    • 3.2.被写界深度、知覚の自然的性質、構図
    • 3.3.物語り機能、露光、サイズ
    • 3.4.第3節まとめ
  • 4.変化の描写と「延続主義」
    • 4.1.「指示」
    • 4.2.「変化」を描写/表象/指示する
    • 4.3.候補①「時間によって時間を描写する」?
    • 4.4.候補②「逐次的な経験をもたらすことで時間を描写する」?
    • 4.5.候補③「前後の想像を喚起して時間を描写する」?
    • 4.6.候補④「シャッタースピードによって時間を描写する」
    • 4.7.「延続主義」の「時空ワーム」
    • 4.8.延続主義への反論 「変化を説明できない」
    • 4.9.そもそも「変化」とはなにか
  • 5.簡単な補足および方法論的な是非について
  • ✂ 感想&コメント

 

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「即興の哲学」:Aili Bresnahan "Improvisation in the Arts"(2015)

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「分析美学におまかせ!」シリーズ(いま考えた)、今回は「即興(improvisation)」です。 

ノープランで、とっさに何かをやる技法。とりわけ音楽において用いられることの多い「即興」だが、古典的な音楽哲学ではいまいち扱いにくい、というのが今回のポイント。

そんな「即興」をなんとか記述/説明しようという論者たちによって、「即興の哲学」とも呼ぶべきフィールドが形成されている。

今回読んできたのは、アイリ・ブレスナハンによる「芸術における即興」(2015)。

著者はデイトン大学で助教授をされている女性美学者。こちらは、イケてるサーヴェイ論文が豊富なことで有名なPhilosophy Compassに掲載された論文。

英米美学における「即興」研究といえば、ほとんどがジャズ研究だが、ブレスナハンはこれを様々な個別芸術(とりわけ著者の専門?であるダンス)に広げようとしている。

構成としては、第1節、第2節で広く芸術における「即興」を概観し、第3節で「即興」の存在論に関する問題、第4節で「即興」の評価/鑑賞に関する受容側の問題を扱う。

 

僕自身、セッションでアドリブソロをとることが多いので、こういった研究があるのは興味深いですね。音楽に限らず、芸術における(非)創造行為に関心のある方なら、面白く読めるはずです。

 

(*言及されている作品にはなるべくリンクや動画を添えました。言及されているわけではないが、関連する作品も独断で混ぜています)

  • 1.芸術一般における即興
  • 2.個別芸術における即興
  • 3.即興と存在論
    • 即興はいかにして「芸術作品」概念に影響するか
    • 即興はいかにして「タイプ⇔トークン」の区別に影響するか
  • 4.芸術における即興はいかにして美的評価や鑑賞に影響するか
  • 👉「即興の哲学」参考文献
  • 感想&コメント
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