「マジックリアリズム(Magic realism)」あるいは「魔術的リアリズム」と呼ばれる創作手法がある。
マジックリアリズムとは、ラテンアメリカ文学を中心に、芸術批評で用いられる概念である*1。ごく大雑把に言えば、その名称が示すとおり、「魔術的/幻想的」な要素と「現実的/写実的」な要素をともに含む作品を指すことが多い。
本記事では、この概念を整理、改良した上で、試験的に運用する。やや大げさな売り文句としては、「マジックリアリズムの概念工学」とでも言ったところか。
僕が(Vaporwaveじゃないほうの)卒論で書いたマジックリアリズム論文も、先行研究そっちのけでMR概念の定式化に邁進したあたり、概念工学の実践なのかも。書き直す機会があれば、「マジックリアリズムの概念工学」ってタイトルにしよう笑
— sen kiyohiro (@obakeweb) September 7, 2018
本記事は2018年に慶應大学文学部に提出した卒業論文「マジック・リアリズムの中国化―閻連科『炸裂志』を中心に」を下地にしている。
当論文では、現代中国の作家であり、マジックリアリズムの影響を受けたとされる閻連科(えんれんか)の作品分析を中心に、マジックリアリズムの手法一般を整理している。と言えば聞こえはいいが、本当は古今東西の世界文学について、思い思いの視点から書きなぐったエッセイ風のナニカシラというのが実態だ。本記事は、このリベンジを兼ねている。
- 0.イントロダクション
- 動機、目的
- 手段、方法
- 主張、結論
- 1.マジックリアリズム小史
- 黎明期:1930年代〜40年代
- 萌芽期:1950年代〜60年代前半
- 黄金期:1960年代後半〜1970年代
- ブーム以後:1980年代後半〜
- 2.「#magicrealism」のレシピ
- MRの雛形:真偽と不確定性
- リアリズム文学、不条理文学、マジックリアリズム
- [ケース1]出来事レベル:「誇張」と「同化」
- [ケース2]語りレベル:「脱線」と「直進」
- [ケース3]語りレベル:時間軸の解体、フラッシュフォワード、その他
- 3.「#magicrealism」を運用してみる
- 映画の「#magicrealism」
- 「分裂」する映画たち
- 「統合」するスローシネマ:長回し、ロングショット
- ひとまずのまとめと、アニメーション映画についての覚書
- 4.総括:「マジックリアリズム」から「#magicrealism」へ
注:この記事は多くのネタバレを含みます。
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